Anne Curzan著「Says Who?: A Kinder, Funner Usage Guide for Everyone Who Cares About Words」

Says Who?

Anne Curzan著「Says Who?: A Kinder, Funner Usage Guide for Everyone Who Cares About Words

言語学者の著者が言葉が好きな人に贈る新しい英語の文法・用法ガイド。日本の人には伝わらないかもだけど、タイトルに「funner」(楽しい=funの比較級で「より楽しい」)という、文法に厳しい人をなぜか逆撫でする、でも本当は全然問題ない単語をわざわざ入れるのがお見事。そういえばアップルが昔「think different」で味をしめての二匹目のドジョウを狙って「funnest iPod ever」という広告を打ったときも反発が起きて話題になってた。

わたしは英文法オタクなので、これまでにもAmmon Shea著「Bad English: A History of Linguistic Aggravation」、Ellen Jovin著「Rebel With A Clause: Tales and Tips from a Roving Grammarian」、Valerie Fridland著「Like, Literally, Dude: Arguing for the Good in Bad English」といった本を読んできて、一般のイメージとは異なり英文法や用法の専門家たちの多くは文法のルールを強硬に押し付けてくるわけではないこと、むしろ厳密なルールとされているものが歴史的にはブレブレで例外がいくらでもあったり、一部の知識人の思い込みに過ぎないものも多いこと、常に変化を続けていることなどをこれらの本から学んできた。学校教育で教えられている「正しい」文法や用法は、社会的な地位のある人たちのあいだで使っても恥ずかしくないようなものだとされるけれど、だれがそれが「正しい」と決めているかというと社会的な地位のある人たちが勝手に決めているだけであって、それによって階級や人種による差別や地域格差が固定されている面もある。

本書の序盤、著者は「グラマンドー」と「ワーディー」という2つの新語を紹介する。「グラマンドー」はグラマー(文法)とコマンドーを合わせた造語で、自分や他人の文法や用法を厳しく監視し修正しようという指向を指す一方、「ワーディー」は食べ物に深い興味を持つ「フーディー」と同様に言葉や言語に好奇心が強い性質のこと。どちらも言葉に強い関心を抱いているのは同じで、ライターや編集者、教育者たちの心の中にはそれぞれグラマンドーとワーディーがせめぎ合っている。とくに生徒を指導する時や、文章を書いて広く社会に届けたいときなど、内なるグラマンドーの役割も必要だけれど、世の中にあるさまざまな言葉の使い方に好奇心を持って接する内なるワーディーの側面を育てることも有用。

著者は以前14年間にわたり、アメリカン・ヘリテッジ英語辞典の「用法パネル」のメンバーだった。この辞書を出版している会社では、言語学者のスティーヴン・ピンカーを筆頭に多数の言語学者、ほかの分野の研究者、ジャーナリスト、小説家ら言語や文筆の専門家たちを集め(実際に一箇所に集まってはいないけど)、文法や用法において意見が割れるような問題について「この使い方は良いのかどうか」毎年アンケートを取っていた。本書ではたびたびその代々のアンケートの結果に触れ、ほんの少し前までタブーとされていた用法が認められるようになってきたり、以前は問題とされなかったフレーズが新たに論争の対象になった様子などを紹介しており、ほんの数十年の単位でも言葉がどんどん変化を遂げてきていることがよく分かる。歴史的な変化についても、新たに学んだことがいくつもあり、文法オタクとして満足がいく本だった。