Prisca Dorcas Mojica Rodríguez著「For Brown Girls with Sharp Edges and Tender Hearts: A Love Letter to Women of Color」
ニカラグア生まれで保守的なキリスト教会の牧師だった父親ら家族とともに幼いころ米国に移住し、若い世代のラティーノ/ラティーナたちの声を届けるメディアLatino Rebelsを設立した著者による初の本。子どものころニカラグアで目にしたアメリカ人の「観光ボランティア」や援助機関の傲慢さに抱いた疑問や不信から、白人でも黒人でもないラティーナとして、そして移民としてアメリカ南部で直面した人種やジェンダーや階級をめぐる問題などを、自身の経験と大学で学んだ理論を組み合わせて綴っている。よくありがちな「白人読者に非白人の経験について分かってもらう」ような本ではなく、タイトルのとおり著者と同じ非白人の女性たちに向けて書かれた、愛情に溢れたラブレター。
本の終盤に出てくるエピソード。オバマ政権のときにホワイトハウスで開かれるラティーノ・ラティーナの教育についてのイベントに招待され、どれだけ両親が誇りに思ってくれるだろうと期待して電話で報告したところ、母親に「ああ良かったね」と軽く流され、すぐに別の話題に話を変えられてしまう。両親が自分の成功を祝ってくれないことが悔しくて泣くのだけれど、そのあと自分がいつのまにか白人のアメリカ人の評価基準を内面化して、それで自分の成功や幸せを測ってしまっていて、それが自分のバックグラウンドであり両親がいまも生きているラティーノ移民としての現実を置き去りにしていたことに気づく著者。これでは自分が反発してきた保守的なキリスト教会という植民地主義的な権威を、アカデミアや社会的上昇という別の植民地主義的な権威に置き換えているだけではないか、という自省はすごい。