Perry Zurn著「How We Make Each Other: Trans Life at the Edge of the University」
トランスジェンダー哲学の論集「Trans Philosophy」の編集者の一人でもあるトランス男性の哲学者が、マサチューセッツ州アマーストの五大学コンソーシアムの記録や関係者らへのインタビューをもとに、20世紀後半以降それらの大学に在籍したトランスジェンダーの学生やその他の関係者たちの歴史を綴る本。
五大学コンソーシアムとは、マサチューセッツ州西部アマースト周辺にある五つの大学の共同体で、私立大学と公立大学、共学校と女子大といった違いを乗り越え、それぞれの大学の学生がコンソーシアムに参加しているほかの大学で授業を受けたり図書館を利用できるなどした取り決めがある。五大学のうちスミス大学とマウント・ホリヨーク大学が女子大であることもあり、アマーストには昔からレズビアン文化がさかんであり、もともと女性として入学したあとカミングアウトしたトランス男性のほうが歴史的に目立つけれども、トランス女性も昔から少数存在したし、近年トランス女性やノンバイナリー自認の人たちにも公式に門戸を開くようになっている。著者は客員講師として五大学に招かれ、大学の資料を深く調査する機会を得た。
本書ではトランス男性やトランス女性の受け入れやかれらに対するサポートをめぐる学内の運動や、差別や偏見を受けながら頑張った当事者たち、あるいは退学や離職に追い込まれた人たちの存在が明らかにされる。かれらはさまざまな困難を経験しながら、五大学の文化の変革を促し、続く世代のトランスジェンダーの人たちにより良い環境を引き継ぐことを繰り返してきた。大学に所属する研究者が大学や学生について調査するお手軽なパターンの研究はたくさんあって安易すぎるものも多いのだけれど、本書はこれまであまりなかったオリジナルな内容で良かった。しかし女子大が(しかもトップクラスのエリート女子大が)近くに二つもあるアマーストは特殊すぎるので、もっと一般的な大学におけるトランスジェンダーの学生たちの経験とは違うのではという気もする。