Harriet F. Senie著「Monumental Controversies: Mount Rushmore, Four Presidents, and the Quest for National Unity」

Monumental Controversies

Harriet F. Senie著「Monumental Controversies: Mount Rushmore, Four Presidents, and the Quest for National Unity

近年さかんに議論されるようになった歴史的なモニュメントについて、四人のアメリカ大統領の頭像が彫刻されたマウント・ラッシュモアを例にとって論じる本。著者はアート史家で、ニューヨーク市が設置した市内の歴史的人物を扱ったパブリック・アートについて議論する審議会のメンバーでもあった人。

マウント・ラッシュモアの有名な彫刻について議論するうえで一番重要なのは、そもそもその像が掘られた山が先住民たちにとって聖地とされており、アメリカ政府との条約により公式に先住民の土地であることが確約されたにも関わらず一方的にアメリカによって占拠された土地であるということ。本書もその点はきちんと記述しており、裁判においてアメリカ政府の占拠が不当であるとする判決が出ていることも説明しているのだけれど、そのうえで彫刻の撤去はありえないと断じ、彫刻によって記念された四人の大統領たちのアメリカ史における功罪についてきちんと議論されるべきだ、という著者の立場が理解できない。そもそもアメリカのものでない土地に占領者たちが勝手にアメリカ大統領の像を作ったのだから、撤去するにしても観光資源として残すにしても土地を先住民に返還したうえで先住民たちが議論するべきものだと思うのだけれど。

これに象徴的なのだけれど、本書では四人の大統領それぞれについて、こういう功績がありました、その一方黒人や先住民に対してはこんなに酷いこともしていました、と記述したうえで、良い点も悪い点も認めてみんなお互い理解し合いましょう、称賛だけでも批判だけでもいけません、的なまとめ方をしているのだけれど、像が設置された意図は明らかに称賛であるわけで、なんで「国民の連帯」を示す方法が現状維持なのかわからない。あと良い点も悪い点も認めようと言われても、自分たちの祖先を奴隷としてモノ扱いしていたりジェノサイドの対象としていたことを「かれらも完全ではなかった」って済まされたらたまらないと思うけど。どうも批判派を「歴史を一面的にしか見ずにアートを壊そうとする奴ら」と見下してまともに取り合おうとしていないよいうに思う。

マウント・ラッシュモアに記念された四人の大統領の像はここだけでなく全国各地にあって(というかわたしが住んでいるワシントン州自体、ジョージ・ワシントン初代大統領から名付けられてるし)、それらについての紹介はおもしろかった。セントルイスの有名なゲートウェイ・アーチがトマス・ジェファーソンを記念するものだということをずっと忘れていたし。ちなみにあのアーチ、ごく最近まで「ジェファーソン・ナショナル・エクスパンション・メモリアル」と呼ばれていて、この「エクスパンション」はアメリカの国土面積を倍増させたルイジアナ買収を記念するもの。マウント・ラッシュモアに選ばれた四人の大統領も、アメリカの領土や支配地の拡大を一番の理由として選ばれたらしい。あとセントルイスのアーチには元ネタがあって、イタリアのムッソリーニが作ろうとしていたもののパクリらしい。えーなにそれ嫌すぎ。