Natalie Whittle著「Shrink the City: The 15-minute Urban Experiment and the Cities of the Future」

Shrink the City

Natalie Whittle著「Shrink the City: The 15-minute Urban Experiment and the Cities of the Future

持続可能で住みやすい街を目指して世界各地で目標として掲げられている、いわゆるコンパクトシティの実態について、多数の例を参照しつつその議論を整理する本。タイトルからはコンパクトシティを推進する本かと思ったけれど、そうでなくバランスの取れた扱い。

コンパクトシティの考えは、20世紀に世界各地で進んだ郊外化を逆転させ、自家用車に頼らずとも徒歩や自転車、公共交通機関によって簡単に行き来できる範囲に住居と職場、公園、学校、店舗などにアクセスできる都市設計を目指すもの。当初は自動車の排気ガスによる大気汚染や都市部の空洞化や交通渋滞などに対処するために掲げられたが、近年では温暖化ガスの排出を抑えた持続可能な都市として推進されている。郊外に住み都心部に車で通勤・通学したりレストランや劇場などに通うモデルは環境にも悪影響が大きいだけでなく人々の時間を大量に浪費させているし、せっかくの都市の大きな部分が駐車場によって埋め尽くされてしまうなど弊害が大きく、その考え方そのものは魅力的。

しかし実際にその都市計画が実施されたとき、街やそこに住む人たちはどうなるのか、というのが本書の主題。もちろんそれぞれの国や都市によって結果には大きな幅があり、実現しようとしたけれどやっぱり車社会・郊外化は変わりませんでした、という例も多いのだけれど、より注目すべきなのは計画が成功し、都市が住みやすい街として再生したときに何が起きるかということ。当たり前といえば当たり前なのだけれど、そうした街にはより裕福な人たちが郊外から移り住み、もともとの住民たちは再開発によって立ち退きさせられたり家賃が払えなくなって追い出されるなど、ジェントリフィケーションが引き起こされる。それがさらに進むと、「住みやすい街」は裕福な住民自身やかれらの意向を受けた警察による監視が強化され、余所者を受け付けない排他的な地域になってしまうことも。

そもそも小さな街の一角に、住居や職場だけでなく学校や病院、図書館、映画館、レストラン、その他さまざまな魅力的なアメニティを全部含むことができるのか、もしできるとしたら、それはやはり一部の裕福な人たちだけが住むことができる、特権的な地域なのではないか。「住みやすい街」とは誰にとって住みやすいのか、誰がそこに住めるのか、という課題にきちんと向き合う必要がある。