Melinda French Gates著「The Next Day: Transitions, Change, and Moving Forward」

The Next Day

Melinda French Gates著「The Next Day: Transitions, Change, and Moving Forward

ビル・ゲイツと離婚しビル&メリンダ・ゲイツ財団からも退任した著者が人生の転機について書いた短い本。

著者が過去に経験した転機として、就職や結婚、出産、親しかった同僚の死などの経験が語られたあと、最後の最後にビルとの別居、離婚、そしてゲイツ財団からの退任と自身の慈善団体の取り組みについて触れられる。別居のきっかけはビルの不倫がメディアで報じられ本人もそれを認めたことだったけれども、彼女が「この人とはやっていけない」と感じた、そして60歳を前にして敬虔なカトリックとして絶対しないと思っていた離婚を決意するに至った、もっと重大な「結婚だけでなく価値観への裏切り」については「それはビル本人によって説明されるべきだ」として説明されない。報道によるとその「裏切り」とはビルが当時既に子どもの性的搾取で一度有罪となっていたジェフリー・エプスタインと親密な関係を築いたことだとされているが、本書にはエプスタインの名前も出てこないしかれの事件にも一切触れられていない。

本書はこのように、60歳になった著者が「ビルの配偶者」ではない自分自身のストーリーを語るために書かれたもの。本人も認めているとおり、著者はたまたま初期のマイクロソフトに就職し、ストックオプションで高級住宅地に家を買ったうえにビルとの結婚で一生かけても使い切れないほどの資産を築いており、離婚を考える50-60代のほかの女性たちとは比べられないほど恵まれている。そうであっても人間としての苦難はあるし、恵まれているからこそ自分の財産を女性たちのエンパワーメントのために使おう、ゲイツ財団のように上から技術的な解決策を押し付けるのではなく現場で活動している女性たちの声をサポートしよう、と考えるように至る。

著者の財団であるPivotal Venturesは女性にフォーカスして、リプロダクティヴ・ライツなど政治的にセンシティヴだからあまりゲイツ財団が触れなかった分野にも資金を出しているほか、著者個人としても妊娠中絶の権利を支持する民主党候補に多額の政治献金を出すなどしているのだけれど、トップダウンでデータ偏重主義な点はあんまりゲイツ財団時代と変わっていない気がする。