Megan C. Reynolds著「Like: A History of the World’s Most Hated (and Misunderstood) Word」
まさかの2冊連続で同じタイトルの本だけれど、こちらは「いいね」ボタンではなく、英語の単語「like」についての本。著者はかつてポップ・フェミニズム系サイトで働いていたフェミニストライター。
likeというのは、like、もちろん、「好き」という意味の動詞でもあるのだけれど、さっき「like、」と書いたように、会話に挟まれる意味のない(とされる)フィラーワードの1つでもある。日本語だと、like、「えっと」とか、「あー」とかと同じと思ってもらえばいいけれど、アメリカでは「バレー・ガール」と呼ばれる南カリフォルニアの白人中流家庭の少女たちのステレオタイプとして、彼女たちが話すとされる(ハリウッドが広めた)バカっぽいギャル語表現に含まれるもの。
会話にことあるごとにlikeという単語を挟むとバカっぽく聞こえる、として英語教師や親たちからさんざん訂正される表現だけれど、それって、like、ミソジニーっていうんじゃない?と著者。若い女性がlikeという言葉を挟むのは、like、表現を和らげて角が立たないようにしたり、強調したり、第三者の発言を文字通りではなく要約して紹介したりと、さまざまな実用的な機能がある、というのは言語学者のValerie Fridlandが書いた「Like, Literally, Dude: Arguing for the Good in Bad English」でも説明されており、同書が取り上げている他のさまざまな単語を含め、「乱れた英語」に対するバッシングが若者や女性に対する偏見に基づいた批判であることを指摘する。
まあ「like」という単語のさまざまな、そして軽視されがちが用法について知りたければ、like、専門外の著者による本書ではなく専門家が書いた「Like, Literally, Dude」のほうを読めって話だけど、わたしが本書でおもしろいと思ったのは、ポッドキャストのホストをしていた経験のある著者ならではの話題。ポッドキャストでフィラーワードを使うとリスナーからめっちゃ文句が来るらしく、likeはバカっぽいとか偏見丸出しの批判はともかく、いちいち「あー」とか入っていると普通に聴きにくいというのは事実なので、自分でポッドキャストを編集している人は自分の発言を何度も聴きながらうまいことフィラーワードを削除するという辛い作業をしているらしい。Like、わたし絶対それやりたくないわー。
あと、生成的AIに会話調の文章を書いてもらうとどうしてもぎこちない感じになるんだけど、バレー・ガール風に書いて、とプロンプトを出すと見事に自然な(ハリウッド作品に出てきそうな)バレー・ガール風の会話が出力されるとか。Kelsey McKinney著「You Didn’t Hear This From Me: (Mostly) True Notes on Gossip」にもChatGPTに古代文学の内容を「ゴシップ風に」要約して、と頼んだところ、まさに噂話を広めているバレー・ガール風の文章が出てきたという話があったけど、AIは普通の会話よりバレー・ガール風の文章のほうが上手に書けるというのはおもしろい。まあ簡単に書けるからこそ、いい加減なライターがハリウッドで、like、量産しちゃうわけだけど。