Meg Leta Jones & Amanda Levendowski編「Feminist Cyberlaw」

Feminist Cyberlaw

Meg Leta Jones & Amanda Levendowski編「Feminist Cyberlaw

バーロウ、レッシグ、ジットレインらが切り開いたサイバー法学がインターネットにおける普遍的な権利や原則を論じるのに対し、女性をはじめとしたマージナルな特定の位置からインターネットの法についての分析を行う、フェミニスト・サイバー法学の論集。カリフォルニア大学出版のサイトにおいてオープンアクセスで公開されているので無償でダウンロード可能。

本書は16の短めな論文を通して、著作権、特許や商標、プロバイダ責任制限法、プライバシー、言論の自由、差別、労働、同意といった話題において、それ自体は普遍的であり差別ではないように見えるさまざまなコードや制度が、結果として女性や非白人、クィア&トランス、障害者らを排除し、あるいはかれらの権利侵害を助長している事実を突きつける。一例を挙げると、差別や抑圧に対抗するためにマイノリティの人たちが生み出したハッシュタグがそれとは無関係な企業によって商標として登録されることがあるが、商標法は商業活動を守るためのものであり特定のコミュニティのたくさんの人たちが使っている運動のための言葉を守るような設計にはなっていないため、世間からの反発という形でしか対抗する手段がない。著作権法や特許法は女性が伝統的に担ってきた活動や少数民族の文化的な行いを権利として保護するようにはできていないし、偏ったデータから学習し差別的な結果をもたらすが差別的な意図のないアルゴリズムによる差別に反差別法は対応できない。

あるいは多くの州で妊娠中絶やその幇助が犯罪として取り締まられるようになったいま、別の州で合法的に中絶を受けようとする女性はそれが地元の警察にばれないように健康状態をトラッキングするアプリを使うなとか検索履歴を削除しろと言われるけれども、仕事を休んだり家族に子どもを預けるなど周囲の人の協力や経済的支援が必要だったりするし、自分のブラウザの履歴を削除したところで個人のオンラインでの行動履歴や携帯電話の位置履歴はいくらでも市場で売買されているため、自衛は根本的に不可能。女性やマイノリティによるテクノロジーを使った抵抗も起きているけれども、人権や尊厳を侵害するテクノロジーにテクノロジーのより良い利用だけによって対抗すべきだというのは、Mary Anne Franks著「Fearless Speech: Breaking Free from the First Amendment」が批判している「有害な言論には有益な言論で対抗すべきだ」という論理と同じく、現実の権力の格差を無視している。

個々の論文は短すぎて、面白くなってきたと思ったら終わってしまうことが多く、このテーマで一冊読みたいと思うものがいくつもあった。また、人工知能やアルゴリズムの社会的影響的な本で既により詳しく読んだことがある話もあれば、意外なポイントを結びつけてくる論文もあり、全体としておもしろかった。オープンアクセスなので目次を見て興味が湧いた論文だけでもぜひ。