Matthew Continetti著「The Right: The Hundred-Year War for American Conservatism」

The Right

Matthew Continetti著「The Right: The Hundred-Year War for American Conservatism

「進歩主義時代」と呼ばれた20世紀初頭の政治潮流への反発として1921年に誕生したウォレン・ハーディング政権から現代までのアメリカの「保守政治」の思想の歴史をエリートvsポピュリズムの軸から追った本。著者も保守派の政治評論家で、トランプ的なものに反発する旧主流派に属する。著者は、どうしてマケインやロムニーはオバマに負けたのかという問いから共和党内で激しい議論が起きたことをきっかけにこの本に繋がる調査をはじめたらしい。エドムンド・バークなどヨーロッパの保守思想をバッサリ切り捨て「アメリカニズム」と呼ぶべきアメリカ独自の保守主義のルーツを探ったり、そのアメリカ保守主義を完成させ全国的に広めた立役者とされるロナルド・レーガン大統領は過大評価されすぎているとするなど、思ったよりエキサイティングな内容も。リバタリアン、伝統主義者、宗教右派、憲法主義者、南部アグラリアニスト、さらにはネオコンやニューライト、トランプ主義などさまざまな保守思想(最後のは保守なのかもよくわからんけど)がドタバタ喧嘩しつつ状況に応じて共闘して来たアメリカ保守政治思想100年の歴史を興味深く読ませてくれる。

保守派政治評論家が書いた本ということで、政治的には納得できない部分があるのは分かったうえで読んだのだけれど、それでも著者による人種問題の扱いはいろいろひどい。ブラックパンサー党やブラック・ライヴズ・マター運動についての言及ではただ単に「暴力集団が生まれて市民の反発を受けた」みたいな書き方をしているけれども、それじゃどうしてブラックパンサーがいまでも多くの人から尊敬されているのかとか、BLM運動がアメリカ史上最大の抗議運動になったのかが説明できない。保守派の白人の多くにはそう見えた、という話ならそうなのかもしれないけど、そういう文脈ではないし。あと南部アグラリアニズムが自らを資本主義的価値観に侵されていない土着の農業生活思想であると位置づけており、連邦政府による価値観の強制に反対している、という話でも、その農業が奴隷制やそれに置き換わった刑務労働や分益小作制など黒人たちの搾取に基づいていたものである点を無視している。そのわりに黒人の保守思想家には多く言及しているのだけれど、黒人一般についての描写があまりにひどいから黒人保守思想家の部分の記述も疑ってしまう。

まあそういうところを含めて、トランプ主義によって反主流派に追いやられた旧主流派のエリート保守のものの見方がよく分かるとはいえるかも。アメリカ政治に興味がある人は、わたしが普段紹介しているような本ばかりじゃなくて、インテリ系ガチ保守本もいちおー読んでおくべき。てゆーかここまで書き終えて一応著者のことをウィキペディアで調べたら、この人、インテリ保守の巨匠ビル・クリストルの娘と結婚してたらしい。