Jane Marie著「Selling the Dream: The Billion-Dollar Industry Bankrupting Americans」

Selling the Dream

Jane Marie著「Selling the Dream: The Billion-Dollar Industry Bankrupting Americans

マルチ商法の実態と歴史、そしてその政治的影響力についての本。

マルチ商法は主婦を中心とする女性や望ましい就職・起業の機会に恵まれない人たちに経済的安定と自立という夢を振りまいて巻き込み、しかしその大半の人たちになんの利益ももたらさないどころか資産を搾り取って使い捨てにする悪質な仕組みだけれど、本書はそれがどのようにして生まれ、発展してきたか、そしてそれを規制しようとする政府とどう戦い、政治献金などを通して政治的影響力を築いてきたか説明する本書。

誰でも努力すればするほど報われると説きながら、実際にはそれは数学的に不可能であり、ごく一部のトップ層しか儲からないにも関わらず、政府の規制をすり抜けて巨大産業となっているのは、トランプ政権では閣僚(アムウェイ創業者一族出身のデヴォス教育長官)まで排出するに至った、アメリカ政治中枢の取り込みと、政治的介入によって規制当局の権限や予算が制限されたことに原因がある。実際のところ、規制当局が違法なピラミッド講であるとして摘発したマルチ業者のほとんどは閉鎖に追い込まれているのだけれど、個別の業者をいくら潰してもキリがないし、残された業者らは実際に守られているかどうかは確認できない内規などを根拠に自分たちは合法的なマルチ商法を行っていると主張し、違反が見つかっても末端が勝手にやったことだと責任逃れをする。デヴォスに代表されるように共和党側だけかと思いきや、マダライン・オルブライト元国務長官がマルチ業者の宣伝塔になるなど民主党にもマルチ業者との癒着は広がる。

実際にマルチ商法のピラミッドの中でかなりの成功を収めた著者が書いたEmily Lynn Paulson著「Hey, Hun: Sales, Sisterhood, Supremacy, and the Other Lies Behind Multilevel Marketing」にも書かれていたように、マルチ商法と福音派やモルモン教などの宗教的なコミュニティやQアノンなどの陰謀論の相性の良さは怖い。コロナウイルス・パンデミックが最も深刻だった2020年から2021年にかけては、失業者の増加と主流派医療への不信の広がりを背景にマルチ業者は免疫力アップをうたったサプリメントなどを宣伝することで組織を拡大し空前の利益を挙げたが、かれらが拡散した陰謀論やワクチン懐疑論などによってどれだけの人が命を失い、あるいひあ後遺症に苦しむことになったか。おそろしい。