Lorgia García Peña著「Community as Rebellion: Women of Color, Academia, and the Fight for Ethnic Studies」

Community as Rebellion

Lorgia García Peña著「Community as Rebellion: Women of Color, Academia, and the Fight for Ethnic Studies

ドミニカ共和国出身の黒人女性でラティーネックス・スタディーズ研究者の著者が、黒人やその他の非白人の女性たちがアカデミアで経験する構造的な差別や不公正を告発し、そうしたアカデミアのあり方そのものに対抗するエスニック・スタディーズの必要性を訴える本。

著者は家族とともに米国に移住した移民家族の娘で、親戚ではじめて大学に進学し、努力と才能が認められて大学講師の道に。ジョージア大学を経てハーヴァード大学でテニュアトラックの仕事を得るも、「ダイバーシティ」を名目に数少ないマイノリティの教員としてさまざまな委員会に強引に加入させられたり、彼女を慕う多数のマイノリティの学生たちのアドバイザーを任せられるなど、白人の研究者には課せられない負担を強いられる。外国語文学を扱う学部内ではヨーロッパ文学の専門家ばかりが採用され、中南米を専門とする著者のクラスはほかのクラスより学生の人数が常に多いにも関わらず追加の教員が採用されることはない。キャンパスでは白人の同僚が自由に行き来しているのに著者だけ頻繁に警備員や図書館の職員らに身分証明書の提示を求められ、トランプが「国境の壁」の建設を訴えていた時期には学生から「壁を作れ!国から出ていけ!」の暴言とともに熱いコーヒーをかけられたり。

さらに精神的ダメージが大きいのは、同じ学部やグループに黒人やラティーノは一人いれば十分、という文化のなか、ほかの黒人やラティーノの研究者たちと同じ背景を持つ仲間として支え合うのではなく、たった一つの椅子をめぐって争わされること。ある時著者がコンファレンスで発表した際、やたらと厳しいコメントをしてくるラティーナの女性がいるなと思ったら、その人は著者がジョージア大学に就職した際の最終候補の一人で、自分を押しのけてジョージア大学の仕事を得ていながらすぐに辞めてハーヴァードに移籍した著者に対する恨みつらみを周囲に漏らしていたという話。キャンパスでも新しい講師の募集をめぐって著者が非西洋の文学を教えられる非白人女性の採用を訴えると、周囲からは「あなたの対抗馬を増やさないほうがいい」とアドバイスを受けたり。

著者がそうした困難に向き合うのを助けてくれたのは、ほかの非白人女性たちは敵ではなく同志であり、問題はダイバーシティの名目でごく少数の非白人研究者たちを採用しながら自分たちを対等に扱おうとせず、非西洋系の研究を学問的な価値の低いものとして扱うような、アカデミアの構造だと理解しているほかの研究者たちや、同じように差別に直面しながら大学に通う学生たちだった。移民の学生たちを排除したり人種差別について扱うような授業を禁止するような政治的な動きに対抗し、著者は一部の同僚や学生たちと協力して、自分たちの経験を反映し、自分たちが権利を獲得するために必要な知識や研究を求める活動をしていく。

そもそもアメリカの、特に歴史のあるエリート大学は、植民地主義を通して先住民から奪った土地に黒人奴隷の労働によって建設された経緯を持ち、白人男性エリートの教育を通してそうした植民地主義や資本主義的な搾取を継続することが目的とされていた。エスニック・スタディーズはそうしたアカデミアのなかにありながら、1968年から1969年のあいだにサンフランシスコ州立大学で起きた学生たちによる長期間の授業ボイコットによって生まれた分野であり、西欧中心的で植民地主義的なアカデミアのあり方そのものを問い、それに替わる共同的な知の生産を目指すもの。政治的にその存在自体を抹消しようとする動きが広まるなか、どうして既存のアカデミアにダイバーシティを持ち込むだけでは不十分なのか、どうしてエスニック・スタディーズは必要とされているのか、著者の個人的な経験を絡めつつ力説する、短いながらもパワフルな本だった。