Jon Michaels & David Noll著「Vigilante Nation: How State-Sponsored Terror Threatens Our Democracy」
文化や人口構成の変化によって権力を脅かされていると感じる白人キリスト教ナショナリズム勢力による、民主主義の否定と私的暴力の法的な正当化についての本。
自らの支配が脅かされていると感じた白人至上主義勢力が私的暴力を法的に正当化するのは、近年になって始まったことではない。たとえばMargaret A. Burnham著「By Hands Now Known: Jim Crow’s Legal Executioners」では南北戦争後の南部において、奴隷解放および新たな憲法修正条項によって保障されたはずの黒人の自由や政治参加を妨害するために違法な私的暴力が採用され、それを警察や司法を含んだ政府機関が容認・加担していたことが指摘されているし、Jessica Pishko著「The Highest Law in the Land: How the Unchecked Power of Sheriffs Threatens Democracy」やJessica Goudeau著「We Were Illegal: Uncovering a Texas Family’s Mythmaking and Migration」、Grace Elizabeth Hale著「In the Pines: A Lynching, A Lie, A Reckoning」でもそうした違法な暴力に南部の保安官が積極的に後押ししてきたことが描かれている。
ひるがえって現在。私的暴力の実質的な合法化については、たとえば黒人市民に対する警察や自警団、白人ミリシアメンバーらによる法的根拠のない暴力が司法によって合法・無罪とされる例は後をたたず、ブラック・ライヴズ・マターのデモに車で突入したり銃を持って乗り込んで自衛を口実に参加者を射殺した人たちが英雄として白人キリスト教ナショナリズム勢力によって持ち上げられる。さらにはテキサス州における妊娠中絶禁止の法律やフロリダ州などにおける未成年へのトランスジェンダー医療禁止令・トランスジェンダーの子どもの性自認や本人が望む名前を尊重することを児童虐待と定義するような法律は、そうした行為をただ禁止するのではなく、市民による密告を奨励し、密告者が報奨金を得られるような仕組みになっており、従来からの私的暴力を法律に取り込んだような形になっている。
また、Laura Pappano著「School Moms: Parent Activism, Partisan Politics, and the Battle for Public Education」などに書かれているように、白人キリスト教ナショナリズム勢力は各地で公的教育で「批判的人種理論」や「トランスジェンダリズム」に基づいた洗脳教育が行われていると一般の人々を扇動し、教師や図書館司書らを恫喝し、人種差別についての教育やクィア&トランスの子どもたちが安全に教育を受ける権利を妨害しており、これも親や地域住民の教育参加という民主主義の仕組みを私的暴力の行使のために悪用していることになる。
とまあ、白人キリスト教ナショナリズムに反対するリベラルな読者にとっては聞き慣れた話で構成されている他の本と大して変わらない内容で、どう対抗するべきかという対策の議論もわざわざ取り上げるまでもないくらい普通。でもまあ普通が普通じゃないのが今の世の中なんで、過去にもこういう時代があった、でもなんだかんだ言って乗り越えてきたし100年単位で見れば以前よりはマシになっている、とでも思うしか。