Jessica Valenti著「Abortion: Our Bodies, Their Lies, and the Truths We Use to Win」

Abortion

Jessica Valenti著「Abortion: Our Bodies, Their Lies, and the Truths We Use to Win

ここ数年、妊娠中絶に関するニュースを毎日伝えるSubstackを運営しているフェミニスト・ジャーナリストによる本。女性の権利に対する攻撃の実態や反中絶派による不誠実なレトリックの分析まで簡潔にまとめてある。

妊娠中絶は良いことであり、アメリカ人の大多数がその権利を支持しているけれど、極端な立場を取る少数の反対派とかれらの主張やレトリックを吟味しないメディアによって「国を二分する論争」であるかのように扱われてしまっている、と著者は指摘する。反対派は医学的に根拠のない主張や概念によって人々を混乱させたり、実際には機能しない「例外規定」によって性暴力被害者や妊娠の続行により命を脅かされている人たちに配慮しているふりをし、しまいにはいまトランプが言っているように「禁止するのではない、常識的な規制をするだけだ」として実質的に妊娠中絶へのアクセスを閉ざすような政策を推進している。また妊娠中絶を行った医者やその患者を処罰する法律によって中絶だけでなく避妊医療や癌の治療などの医療行為まで萎縮させ、そのかわりにより危険な医療行為を受けさせるなど、女性の命を不必要に危険にさらしており、すでに多数の犠牲者が生まれている。

それほど長い本ではないけれど、政治問題としての妊娠中絶問題は単に妊娠中絶だけの問題ではなく、女性(および妊娠する身体を持つすべての人たち)の人間としての尊厳と権利に対する重大な侵害だということがよく分かる。妊娠中絶について議論するために必要な情報が詰まっている、広く読まれてほしい一冊。