Jeffrey C. Hooke著「The Myth of Private Equity: An Inside Look at Wall Street’s Transformative Investments」

The Myth of Private Equity

Jeffrey C. Hooke著「The Myth of Private Equity: An Inside Look at Wall Street’s Transformative Investments

先日、プライベート・エクイティ・ファンドの中の人が書いたPEファンド礼賛プロパガンダ本(Sachin Khajuria著「Two and Twenty: How the Masters of Private Equity Always Win」)を読んだので、PEファンドに対する批判的な本も読んでおこうと思って選んだのがこの本。著者は投資家でファイナンスの専門家でビジネススクールの講師もしている業界人。PEファンドの実態についての研究で論文も発表している。

著者のPEファンドに対する批判は容赦ない。いわく、高い利益を出して注目を集めたのはある特定の一時期だけで、その後は手数料が圧倒的に安いインデックスファンドに比べて高い利益は出せておらず、投資家にとっては10年単位で資金を動かせなくなる不便さを補えるものではない。運用が不透明で投資家からだけでなく買収先の企業からさまざまな口実で手数料を取ってファンドマネージャーだけ儲けている。ファンドマネージャーに都合のいい情報だけ公開しており、何種類もの評価基準が乱立しているために7割以上のファンドが何らかの基準で「上位25%」と自称している。ファンドの現在価値として投資家に伝えられる数字は、保有している企業の「潜在的な」価値をファンドマネージャーが自在に決められるのでいくらでもごまかせる。PEファンドの利益の大半は投資による利益の分配ではなくお金を預けられるだけでなにもしなくても生じる手数料。たまたまあるファンドが高い利益を出しても同じファンドマネージャーの次のファンドが同じように高い利益を出す確率はほかのファンドより高くはなく、過去の業績がいっさい頼りにならない、などさんざん。

本書がおもしろいのは、もしPEファンドに業界が宣伝するような高配当がなく、手数料が安いインデックスファンドと大して変わらないのであれば、どうしてPEファンドが存続しているのか、という分析だ。PEファンドは一般投資家ではなく機関投資家を顧客にしており、その多くが政府系の投資ファンドや公務員の年金ファンド、非営利団体や大学の運用ファンドなどで占められる。これらのファンドの責任者たちは自分の財産を投資しているわけではないので配当を最大化する動機が少なく、PEファンドへの投資の結果が出る10年後には現在の地位にいるかどうかもわからない。むしろ過去の実績から高い配当が「期待される」(実際のところ過去の実績は頼りにならないけど)ファンドを選んだほうが書類上うまく行っているように見える。また、手軽なインデックスファンドに投資するのであればわざわざ運用の専門家を雇う必要もなく、自分のポジションがなくなってしまうかもしれない。

公務員年金の運用に参加している労働組合には組合員の年金を守るために投資先を吟味するのではないかという疑問に対しても、著者は二つの答えを示している。一つは、PEファンドの関係者が顧客を確保するために労組幹部や運用担当者を接待して個人的な利益を与えていること。しかし著者はそれよりありえる説明として、公務員年金の運用が失敗しても政府が税収をもとに救済してくれると信用しているから、運用失敗のリスクをそれほど気にしていないのではないか、と指摘する。政府系のファンドにしても、ファンドの内実は州や連邦政府の予算とは別枠になっているので情報が十分に開示されておらず、運用が複雑であれば複雑であるほどファイナンスの専門家ではない議員や政府関係者には監視のしようがない。そのため無駄に高い手数料を払っていても、なかなか是正されない。

「Two and Twenty」ではPEファンドは年金や政府ファンドの運用を支えており社会に貢献している、という話が書かれていたが、この本ではそれは年金や政府ファンドのガバナンスが不十分だから食い物にされているだけだ、という話になる。もちろんどちらか一方が全面的に正しいというわけではないのだろうけど、ファンドマネージャーが大儲けしているのは事実だし、実際どれだけ食い物にされているのかはともかく、内情が不透明であり、腐敗をもたらすインセンティヴが働いていることも確からしい。よくわからない世界だけど、よくわからないなりに著者の危機感はよくわかった。