Ha-Joon Chang著「Edible Economics: A Hungry Economist Explains the World」

Edible Economics

Ha-Joon Chang著「Edible Economics: A Hungry Economist Explains the World

韓国出身の経済学者が世界のさまざまな食材と食文化の歴史に触れつつ経済学を解説する本。著者は自由貿易や市場競争に関する経済学的な通説を批判し政府が果たすべき役割を強調する非主流派の経済学者で、著書の『世界経済を破綻させる23の嘘』や『はしごを外せ 蹴落とされる発展途上国』などが日本語でも出版されている。

読む前は経済学の視点から食について語る本かと思ったけど、実際のところ食にまつわるエピソードはつかみとして使われ、それをきっかけとして貧富の差が生まれる理由やその是正がどうして必要なのか、経済的に発展した国は自由貿易ではなく保護主義的な経済政策や産業政策を経由したこと、多国籍企業が途上国の発展に寄与するための政治的条件、環境や福祉のために政府が果たすべき役割など、著者の持論が展開される。子どもが苦手な野菜を細かく刻んでハンバーグに入れるように、難しい経済についての主張が食についての興味深いエピソードに混ぜられてわかりやすく解説されるみたいな感じ。

経済が厳しく統制されていた時代の韓国に育ち、経済学を学ぶために渡ったイギリスで世界中の食文化に出会って衝撃を受けたり当惑したりしたグルメな著者の個人的なエピソードはおもしろいし、そこからそれぞれの食材がどの国でどのように生産・消費されているのか、そしてその歴史はどうなのか、という話から経済の話にスライドしていく手法も上手。経済学的な議論も意見は分かれるだろうけれども「いろいろな食文化に触れることで豊かな生活ができるのと同じように、いろいろな経済学的な意見に触れるべきだ」と著者も言っていることだし、わたしは大方納得できた。