Glory Edim著「Gather Me: A Memoir in Praise of the Books That Saved Me」
読書好きがこうじて黒人女性を中心としたオンライン読書会Well-Read Black Girlを主催し、さらには黒人やその他の非白人、先住民のライターとかれらの作品を祝う文学祭を開催するようになった黒人女性が、自分を救ってくれた本について語りながら人生を振り返る自叙伝。わたし的には今年読んだ本のなかで一番好きかも。
著者の両親はナイジェリア出身の移民で、アメリカに移住し高学歴を収め必死に働けば成功できるという夢が人種差別によってことごとく裏切られ家族を捨てて勝手にナイジェリアに帰国してしまった父と、二度の不幸な結婚を経験し鬱で五年間ものあいだベッドを離れられず言葉もほとんど話せないようになってしまった母を持つ著者。母にかわって弟を育てる責任を負いながら、トニ・モリスンに、アリス・ウォーカーに、ゾラ・ニール・ハーストンに、マヤ・アンジェロウに、ベル・フックスに、そしてその他多数の作家たちの作品に出会い、それらに支えられながらアイデンティティを、恋愛を、家族との関係を、生きる意味を自らのものにしていく。とはいえ若い頃は変なヘテロノーマティヴな恋愛脳のフィルタを通して読んだせいでモリスンが批判的に描く男女関係に理想を見出してしまったりと、若気の至り的な誤読についても告白していて、そのあたりもおもしろい。タイミングが来ないと理解できないものって確かにあるよね。あとアンジェロウの自伝について授業で取り上げて「文法がおかしい」と言ってのけた白人男性教師は許さん。
取りあげられている本は黒人女性のものが中心だが、(白人)欧米文学の古典や黒人以外の非白人の作品もあり、また小説だけでなく自伝や詩、エッセイ、政治的主張までさまざま。読書報告を見れば分かる通りわたしはいまノンフィクション作品ばかり読んでいて、新しい知識や考え方に触れることに関心を持っているけれど、そういえば以前は彼女のようにいろいろ読んで影響を受けていたな、と思い出させてくれた。わたしが未読のものも多かったけれども、取り上げられている作品を知らなくても楽しめる内容。モリスンをはじめ人種差別やジェンダー・セクシュアリティを正面から扱う作品が各地で学校教育や学校図書館から排斥されているなか、本がどうして必要なのか思い出させてくれる。