Ghostface Killah著「Rise of a Killah: My Life in the Wu-Tang」
伝説的ヒップホップグループWu-Tang Clanのメンバーの一人、ゴーストフェイス・キラーによる自伝。ゴーストくらいソロでも成功しているとわざわざWu-Tangの名前をサブタイトルに入れなくてもいいように思うのだけど、まあかれのことを説明するのに「伝説的ヒップホップグループのメンバー」とわたしも書いているんだからそういうものか。
全体的に、「どうしてこれ出したの?」という感じ。貧しい子ども時代から犯罪に手を染める経緯やWu-Tangの実質的リーダーRZAとの出会いと友情、キャリア、信仰(Five Percent Nationから入り伝統的イスラムに改宗)というかたちで自伝っぽくはあるんだけど、人生でこういう経験をしてこういうことを学んだ、成長した、という要素があんまりない。二歳年下のビギー(The Notorious B.I.G.)をガキ扱いした話とか、豚肉を食べるたびにお腹が痛くなったのでイスラム教の正しさを痛感した話とか(アレルギーでは?)、エピソードは面白いんだけど薄い。貴重な写真や記念品の写真がたくさん掲載されていてファンには嬉しいけど(ゴーストが嫌そうな顔をしているJay-Zと無理やり肩を組んでる写真とか、なんでそれをセレクトするの?と思ったけど笑った)、それくらいかな。人種差別についての意見を書いた章では、ジョージ・フロイド氏が警察によって殺害される動画を見て自分が殺されたように感じた、として、キング牧師の非暴力主義やブラック・ライヴズ・マター運動によるプロテストは手ぬるいとして、「行進しても何も変わらない、もし警察が自分を殺したら行進なんてするな。誰かを殺せ。」と書いている部分とかゴーストすげえって思うけど。
本の最後ではWu-Tangのメンバーたち一人ひとりについて、こいつはこういうやつでここをリスペクトしている、みたいなことが書かれてあって、かれらの関係性が垣間見えてほっこりするんだけど、結局Wu-Tangの話で締めちゃうの?と思った。Wu-Tanメンバーの自伝としてはRaekwon著「From Staircase to Stage: The Story of Raekwon and the Wu-Tang Clan」のほうが何を伝えたいのかというメッセージがちゃんとあってまとまっている。