Ethan Mordden著「Gays on Broadway」

Gays on Broadway

Ethan Mordden著「Gays on Broadway

20世紀から今世紀にかけてのブロードウェイにおけるゲイの歴史をたどる本。…っていやいやブロードウェイの歴史ってゲイの歴史そのものでしょ、わざわざブロードウェイにおけるゲイの歴史をたどる必要ある?と一瞬思ったけど、制作者や演者から客層までブロードウェイといえばゲイがたくさん関わっているという事実は昔から変わらなくとも、かれらが作品の題材としてゲイの生活や文化をどう表現してきたか、あるいはできなかったかという観点から見れば当然時代によって移り変わるわけで、それなりにおもしろかった。

ライセンスを通して同性愛の表現が規制されていたなかメタファーや婉曲的な表現を通して見る人が見れば分かるかたちで自分たちの分身を登場させていた20世紀序盤からはじまり、ゲイによる運動が高まった結果、ストーンウォール反乱の前年に発表されゲイライフを描いた「The Boys in the Band」(1968)、フランスの演劇を原作としドラァグクィーンを大勢登場させた「La Cage aux Folles」(1983)、HIV/AIDSの影響を取り込んだり主題に据えた「The Normal Heart」(1985)、「Angels in America」(1991)、「Rent」(1996)など、だんだんわたしも知っている作品が登場する。ただ、これらの作品をわたしは後から知ったので、あらためて時代背景や当時の世間の反応などを読むのは興味深かった。

わたし自身はむかし数年間のあいだなぜかすごく劇に興味をもって、学生向けの安いチケットを買ったり、それよりさらに安い地元の各大学の演劇科の公演を観にったりしてたのだけれど、それほど詳しいわけではない。ただ本書を読んで一番驚いたのは、わたしが高校のときに合唱部で参加させられたミュージカル「Li’l Abner」(1956)が取り上げられていたこと。これはヒルビリーの村を舞台にした昔のコミック・ストリップを原作にした作品で、当時は全然クィアな話だとは思わなかったんだけど、すごいハンサムで力持ちの主人公の男性がモテまくるけど女性に興味がないとか、高校版ではなかったけどブロードウェイ版では作中にボディビルダーが大勢登場してポージングするとか、「えークィア要素隠されてたじゃん!」といまさら知った。わたしが音楽室のピアノで「La Cage」の曲を弾いてたら「それゲイの曲だよ」って合唱の先生にからかわれて二度と弾けなくなったあの学校で、生徒にクィアなミュージカルやらせてたなんて!

それはともかく、本書では最初に「ゲイ」という言葉で男性と女性の同性愛者両方を指します、と書いているのだけれど、レズビアンの話はところどころで少し出てくるだけで、むしろバーブラ・ストライサンドはじめ「ゲイ・アイコン」とされた異性愛女性の話のほうが多いくらい。作品として特筆されているのはAlison Bechdelの自伝的グラフィックノベルを原作とした「Fun Home」(2013)くらいだけど、その部分でも著者はレズビアンである著者の分身である主人公ではなくゲイであることを隠して生きてきた彼女の父親のほうに注目している感じで、それならむしろゲイとレズビアンのどちらも扱うとか言わないほうが良かった気がする。それにしても「Fun Home」リアルで観たかったなあ。