E. Jean Carroll著「Not My Type: One Woman vs. a President」

Not My Type

E. Jean Carroll著「Not My Type: One Woman vs. a President

1990年代にのちに大統領になったドナルド・トランプに性的暴行を受けたことを告発し、それをフェイクだとして大勢の支持者に彼女を攻撃するよう扇動したトランプを性的暴行と名誉毀損で民事裁判に訴えて勝訴した著名ジャーナリスト・作家・アドバイスコラムニストが自身の裁判について詳細に書いた本。タイトルはトランプが著者への暴行を否定した際、「彼女のことは知らない、会ったこともない、自分の好きなタイプでもない」と否定した(しかし会った証拠はたくさんあるし、彼女の写真を見せられて自分の元妻と勘違いする程度には好きな女性と同じタイプだったりする)発言から。

序盤には著者の生い立ちや高級女性ファッション誌でアドバイスコラムを20年以上続けるまでに至った華麗なキャリアについても触れられているが、本書の主題はあくまでトランプとの裁判。陪審員には「どこからニュースを得ますか?」という質問に右翼インフルエンサー名前を出す人もいるなど有利な状況ではなかったし、性暴力の告発に付きまとういつもの「どうしてその時大声を挙げなかったんだ、なんで警察に駆け込まなかった、どうしてその後も普通にキャリアを続けトランプと出会う可能性のあるパーティに出たりできたんだ」などの攻撃に晒されたり、彼女に性的に保護される価値があるか値踏みするかのような過去の性遍歴を明らかにするよう求められたりするなど、決して楽な裁判ではなかった。しかしトランプ本人が宣誓証言を拒否するなど被告側の失態もあり、陪審は全会一致でトランプによる性的暴行を事実と認定し、著者への損害賠償を命じた。ただしトランプ側は控訴し裁判は継続中。

はじめは何十年も前に起きた行為を立証するのは難しいのでは?と思ったけれど、著者がすごいのか弁護士がすごいのか、それともトランプが後先考えず嘘をバラまきすぎなのか(多分最後のが正解)、トランプ側の議論が次々と反証されていき、その結果かれの主張全体の信憑性がゼロ以下に落ちていくのが圧巻。「アクセス・ハリウッド・テープ」として有名になったトランプ自身の「有名人は何をやっても許される、女性器にいきなり触ってもいい」という発言だけでなく、実際にいきなり体を触られたほかの女性たちの証言のほか、事情により提出されなかった数々の証拠も圧倒的で、あれだけ堂々としていられるトランプの精神構造が謎すぎる。

本書はまた、以前「サタデー・ナイト・ライヴ」で作家をしていた経歴もある著者らしく、こうでもしなくちゃ嘘みたいなトランプとの裁判なんてやってられねー、的に繰り出されるドライなユーモアがこれまたすごい。トランプによる暴行いらい男性との性的関係を持てなくなったというトラウマを抱えつつも、性暴力被害者がジョークを飛ばして笑いを起こして何が悪い、性暴力被害者が作家として成功して何が悪い、という信念が根底にあり、素直にすげーって思う。72歳で夫が集めた数十人の男性による性暴力被害を公表し戦ったジゼル・ペリコさん(Caroline Darian著「I’ll Never Call Him Dad Again: By the daughter of Gisèle Pelicot: Turning our family trauma of Chemical Submission into a collective fight」参照)もすごいけど、裁判時79歳だった本書の著者もまたすごいパワー。