Cynthia Miller-Idriss著「Man Up: The New Misogyny and the Rise of Violent Extremism」

Man Up

Cynthia Miller-Idriss著「Man Up: The New Misogyny and the Rise of Violent Extremism

過激な政治運動の研究者であり極右過激派についての著書もいくつかある著者が、そうした研究のなかで後回しにされてきたミソジニーが極右政治運動のなかで果たしている役割に注目した本。

銃乱射事件や過激な政治運動による暴力のほとんどは男性によって実行されているが、かれらはただ男性であるだけでなく、女性に対する敵意と嫌悪を募らせ、過去に身近な女性たちに対する暴力をふるってきた男性であることが異様に多いことは見逃されがち。世界各地で排外主義や権威主義など極右政治運動の勢力が増しているなか、イデオロギーや信仰・国籍の違いはあれど、それらを結びつけているのはミソジニーだと言える。

過激派研究がこれまでジェンダーを見過ごしてきたことを指摘し、女性や性的少数者に対する攻撃がさまざまな右派による陰謀論や排他的政策、人権侵害の土台となっていることを次々と示していく。著者による批判の対象には、男性のミソジニストや過激派だけでなくかれらの暴力的な言論や行動を後押しする一部の女性たちも含まれており、移民やトランスジェンダーの人たち、人種的マイノリティ、そして「民主党のエリートたち」(Qアノン陰謀論)から女性や子どもを守れ、と訴える女性たちの運動や、反ユダヤ主義的な「リプレイスメント理論」による白人国家の侵略に対抗するためと称する白人女性に対する出産推奨運動などが挙げられる。

著者は自身の過去の研究においてもジェンダーを軽視していたとして反省しつつ、ジェンダーを分析の中心に据えた過激派研究に取り組んでいる。とても重要な視点だと思う。