Dwarkesh Patel著「The Scaling Era: An Oral History of AI, 2019–2025」

The Scaling Era

Dwarkesh Patel著「The Scaling Era: An Oral History of AI, 2019–2025

人工知能(AI)業界の人たちへのインタビューで人気のポッドキャストホストが、さまざまな識者のインタビューをテーマごとに再構成してAIの「スケールの時代」を記録する本。

著者の言う「スケールの時代」とは、モデルの規模、計算能力、学習データを爆発的に拡大(スケール)することにより、大規模言語モデル(LLM)を使ったAIの性能が飛躍的に向上したここ5年ほどを指している。スケールのさらなる拡大が今後さらにLLMを進化させいずれ汎用人工知能(AGI)を生み出すのか、それとも収穫逓減によって先細りするのかは論者によってまちまちだけれど、LLMを採用したAIの急速な発展が社会に与えた影響の大きさはみんなが感じている通り。

本書では章ごとに人間の脳とAIの類似性や違い、AIの可能性、AIがもたらす人類滅亡の危機などさまざまなトピックについて、ほぼ全員男性と思われる(男性でないのは一人だけだと思う)技術者や研究者、経営者らによる著者(ポッドキャスター)への回答がまとめられている。

興味深いことに、AIによる人類滅亡の危機について問われたマーク・ザッカーバーグは「そんな将来あるかどうかわからない問題でなく、いま脅威となっているデマや差別扇動について取り組むべきだ」と答えていたことで、たぶんこれまだシェリル・サンドバーグの首輪がついていた時期のザックじゃん!と思った。けど「デマや差別との戦いはいたちごっこだけど、いまのところはフェイスブックは一歩先を進むことができている」と自画自賛してて、いやいや全然できてねーだろなに言ってんだと。まあいまのかれに比べたら当時のザッカーバーグのほうがまだマシだったという話。

脳科学についての会話や技術的な部分はそれなりにおもしろいと感じるところもあったけれど、AIがもたらす社会的な問題、デマや差別言説の氾濫だけでなく、アルゴリズムによる監視や差別行為の横行、労働や文化に対する影響などについての会話となると、とにかくなんでも技術的に解決できるという考えばかりでダメすぎ。AIの社会的側面について批判的な研究をしている研究者や、AIによってもたらされた問題と戦っている活動家だってたくさんいるのに、そういう人たちの声はAI業界で働いている人たちには届いていないし、著者もおそらくそうした人たちの発言に価値を置いていない。これだけ社会にも経済にも大きな影響を持っているのに議論が業界内部で閉じていて、しかもそれを規制すべき政府の大統領や閣僚が業界に便乗して私的な蓄財を行おうとする連中ばかりなの、絶望しかない。