Christina Vo & Nghia M. Vo著「My Vietnam, Your Vietnam: A father flees. A daughter returns. A dual memoir.」

My Vietnam, Your Vietnam

Christina Vo & Nghia M. Vo著「My Vietnam, Your Vietnam: A father flees. A daughter returns. A dual memoir.

南ヴェトナム軍に研修医として従軍しサイゴン陥落後に共産党政権を逃れ難民としてアメリカに移住した父と、アメリカで生まれ育ち国際援助機関の職員として父の祖国で働いた娘の、ヴェトナム系アメリカ人家族によるダブル自叙伝。

本書は父と娘の共著とされていて娘と父のストーリーが交互に語られるけれど、父の部分はかれが出版した本などから再編集したものであり、実質的には娘による本。はじめのうちは世代が近くアメリカ育ちの娘のほうに感情移入しつつ読み始めたのだけれど、アジア系の住民がほとんどいない地域で育ちヴェトナム系アメリカ人であることを隠すようにして生きてきて大学でヴェトナム系アメリカ人学生の団体に誘われてもなんの興味も持たなかった彼女がある時唐突に「そうだヴェトナムに行こう」と言い出して、コネを駆使してハノイに移り住んだかと思うと、自分と同じ欧米出身者たちとつるんでアメリカ人が開いたカフェでカプチーノ飲んだり、ヴェトナム語も学ぼうとせず英語が母語だというだけで国際援助機関に採用されて仕事をして、数年後にはやっぱりヴェトナムはいいやみたいにアメリカに帰ってくるしで、共感できるところがあんまりない。

それに対し父親のほうは、祖国ヴェトナムを離れざるをえなかった、自分の記憶のなかにあるヴェトナム共和国と今はホーチミン市と名前を変えてしまったサイゴンにノスタルジーを感じるあまりいまのヴェトナムには帰れなかったり、(いまでは引退してるけど)医者として働きつつヴェトナム人難民・移民としての自分が経験を書き残すとともにほかの南ヴェトナム出身者たちの話もまとめるなどの活動もしており、娘の薄っぺらい話とは段違いにおもしろい。そもそも父と娘は親密な関係ではなく子どものころからほとんど会話もなかったくらいで、娘が父の経験に興味を抱いて和解しようとする、というのがいちおうストーリーになっていると思うんだけど、「親がいるうちに対話しておけ」と誰かに言われた、という以外にどうしてそういう気持ちになったのかよくわからないし、いまでも父が過去に書いたものを読むことでしか理解が進んでいなさそうな感じ。

めっちゃおもしろそうなテーマ・構成の本なんだけど、ていうか南ヴェトナム出身者には多い反共主義者のなかでも特に強硬で周囲に呆れられている感のある父の話は実際おもしろいんだけど、娘の部分がいろいろ期待外れに感じた。