Britney Spears著「The Woman in Me」

The Woman in Me

Britney Spears著「The Woman in Me

13年に及ぶ成年後見制度を通した父親の支配からようやく自由になったポップミュージシャン、ブリトニー・スピアーズの回顧録。

史上最も成功したアーティストの一人でありながら「お騒がせセレブ」としてタブロイドをはじめとする悪意あるメディアの視線に晒され続けた著者が、どのようにして精神的安定を崩され、どこに住んでなにをするのか、何を食べるのか、どうお金を使うのかに及ぶまで自分で決める権利をことごとく奪われ、父親に指図され苦しんできたのか、彼女の視点から細かく語る。奇行とされた彼女のゴシップネタの多くが、実際には精神的に追い込まれた彼女がガチガチな支配から逃げ出そうともがいた結果だったと納得した。

ミシシッピ州の貧しい白人家庭に育ち、若くしてミュージシャンとして大成功するも南部の女性の理想とされる規範に沿って父親やパートナーの男性を立てて生きてきた著者。仕事の面では父親の干渉を受け、付き合っていたジャスティン・ティンバーレイクが要求するままに本人は望まない妊娠中絶を受け入れたのに、別れたあとにティンバーレイクが出したヒットソングで一方的に悪者にされる。次のパートナーには子どもを奪われ、父親は彼女が稼いだお金で雇った弁護士を使って彼女から自由を奪い、母親らも彼女のゴシップを売ってお金にする始末。

彼女がどれだけ父親やその関係者らによって自由を奪われているのか一般のファンは知らなかったけれども、そのうちに何らかの強制力によって自由を奪われ経済的にも搾取されていることは知られるようになり、「ブリトニーに自由を」キャンペーンがソーシャルメディアで広まった。成年後見制度の濫用に反対する障害者運動やほかの女性芸能人たちの支持も集めるようになり、ついに2021年に彼女は13年ぶりに自由を得ることになった。

アワード式典のパフォーマンスでステージ上でキスし、その後楽曲でも共演したマドンナが自分の仕事やブランドを完全にコントロールしているのを見て憧れるけれど、それにどうしても届かないブリトニーのもどかしさには共感しかない。本書を出したことでまた過去のゴシップが蒸し返されたり、自己正当化のために一方的なことを言っているとか叩かれるかもしれないけど(自己正当化して何が悪いと言いたい)、わたし的にはこれまで以上に応援したくなった。