Susannah Breslin著「Data Baby: My Life in a Psychological Experiment」

Data Baby

Susannah Breslin著「Data Baby: My Life in a Psychological Experiment

子どものころ親によって30年間に及ぶ縦断研究にエントリーされた著者が、研究者に観察されながら育ち、セックスブロガー・ジャーナリストとして活躍するも、私生活での悩みから自身が参加していた縦断研究について逆にリサーチをした経験について書いた自叙伝。

著者が参加したのは、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者カップルジャック&ジーニ・ブロック夫妻やその弟子たちが幼い子どもたちを1969年から1999年まで30年に渡って追跡調査した大規模な研究プロジェクト。この研究がはじまった当時の心理学では、人にはそれぞれ安定した性格があり認知や感情、行動などを一貫した方向に導いているという考え方に疑いが持たれており、この研究はその真偽を問うとともに、子どもの頃の性格をもとに将来どのような人生を歩むか予測できるかどうかという問いが立てられていた。

著者の父親はUCバークレーの文学教授であり、母親もUC内で英語講師をしていた。ブロック夫妻は学内に発達心理学の研究施設を兼ねた託児所を設置しており、両親は娘が長期的な観察研究の対象となることを受け入れ、彼女をその託児所に預けることになる。当初はもちろん自分が研究の被験者であることや、鏡がマジックミラーになっていてその向こうに研究者が子どもたちを観察するスペースがあることは知らなかったが、ある時以来まわりに誰もいないのに「見られている」と感じたりもした。また年齢を重ねるとともに自分が観察されていることも学び、定期的に通っている学校まで研究者がやってきて質問に答えさせられたり何らかの心理テストを受けさせられたりもしたが、研究者から注目されることで自分は特別だと感じ、自分の意思で協力するようになっていった。

大人になった著者は、注目を追い求め、多数の男性とセックスしたり、ポルノ女優に憧れ、ポルノ撮影現場やアダルト産業イベントなどをカバーするライターになる。本書では一言だけ触れられているのだけれど著者は1990年代に大きな影響力を持った(わたしも読んでた)セックス・ポジティヴ系のブログ「ポストフェミニスト・プレイグラウンド」の運営者であり、2000年代に入ってからはアダルト産業をテーマとしたジャーナリスティックなブログも立ち上げている。こうした彼女の生き方に彼女が被験者として幼いころから観察されていたことと関係するのかどうか、するとしたらどの程度関係しているのか本当のところは分からないが、人はそこに関連を見出さずにはいられない。

本書では著者のたびたびの引っ越しやニューオーリンズやフロリダでのハリケーン被災体験、勢いで行った結婚とドメスティック・バイオレンス、両親との関係から、ジャーナリストとしてUCバークレーのフェローシップを獲得しブロック研究の元施設を訪れたり当時の研究者やほかの被験者たちにインタビューしたりという話が続く。著者はもともとブロック研究についてのジャーナリスティックな本を出したかったけれども出版社に言われて自叙伝という形にした、と書いていて、たしかに寄り道っぽい話が多い気もするのだけれど、自叙伝としてのおもしろさが生まれている。

で、最後に、自分たちブロック研究の被験者たちは学問的真理の追求という目的を掲げた研究者たちに観察されたけど、いまではほとんどの人たちはスマホを持ち歩くだけで(いや持ち歩かずとも)位置情報を追跡され、どのウェブサイトにアクセスしたか、いつどこで何を買ったかまでフェイスブックやその他のプラットフォーム企業に監視されマネタイズされている、いまやほとんどの人は子どものころの自分よりずっと綿密に観察・分析されている、と言っている。いやそれ言っちゃおしまいだけど。