Brianna Holt著「In Our Shoes: On Being a Young Black Woman in Not-So “Post-Racial” America」

In Our Shoes

Brianna Holt著「In Our Shoes: On Being a Young Black Woman in Not-So “Post-Racial” America

Z世代の黒人女性ジャーナリストが自身を含めた若い黒人女性たちが経験しているミソジノワールとそれへの抵抗について綴ったエッセイ集。

肌の色の濃さによって美醜だけでなく仕事を得る機会や社会的な信用などに至るまで順位付けされるカラーイズムや、ソーシャルメディアなどで反レイシズムのパフォーマンスをするけれども実際の行動によって黒人女性を支えてくれないリベラルな白人たち、黒人女性の髪型に対する差別や興味本位の白人たちによって勝手に触られたり、公共の場所で普通にしているだけでそこにいる正当性を問われたり警察を呼ばれたりすることなど、これまでにも多くの黒人女性たちが訴えてきた問題に加え、本書で繰り返し論じられるのは、黒人女性に「強くあれ」と要請する社会的圧力の弊害。

黒人女性は人種差別と性差別の両方に晒され、また黒人男性の多くが刑務所に入れられたり犯歴のせいでまともな収入を得られる仕事に就けないなか、一人で家族を支え、働き、コミュニティを維持してきた。また政治では2020年の大統領選挙やジョージア州上院議員選挙の結果を見れば分かるように、民主主義を守る責任すら黒人女性は背負わされている。多くの黒人女性たちはこれを誇りにしてきたが、このように黒人女性に超人的な強さを求める傾向は、奴隷制のなかでか弱い白人女性とは異なり黒人女性はいくら酷使しても構わない道具として扱われたり、現在でも医療現場で黒人女性は痛みや苦境に強いので同じだけのケアを必要としないと決めつけられていることと無縁ではない。

黒人女性に押し付けられる重圧は軽減されないまま「黒人女性のレジリエンスは素晴らしい」「民主主義を守ってくれた黒人女性に感謝しよう」などと称賛され、その重責を果たそうとした結果ウェザリングによって心身を削られるだけでなく、若い黒人女性のあいだの希死念慮はほかの若者と比べてもとても多い。著者の母親の世代が誇りとしてきた黒人女性の打たれ強さへの信頼が自分たちの世代の黒人女性たちを苦しめていることを指摘するところは現代的。黒人女性だからって、常に強くなくても、常に戦わなくてもいいはず。著者はほかの黒人女性とのつながりや黒人女性たちが作ったソーシャルメディアのキャンペーンを通して支えられた経験を語り、自由と癒やしの必要性を訴える。

いまのアメリカの若い黒人女性たちがどういう社会状況に置かれているのかよく分かる一冊。