Bonny Reichert著「How to Share an Egg: A True Story of Hunger, Love, and Plenty」
子どものころジャガイモの皮や使用済みのコーヒーの粉を食べてアウシュビッツ=ビルケナウ収容所を生き延びた父を持つカナダ人ジャーナリストの著者が、食との関わりやポーランドやドイツへの訪問を縦筋に取りつつ、ホロコースト生存者第二世代である自分の人生に向き合う本。
若いうちから父に自分の話を書き残してほしいと言われていた著者だが、その体験はあまりに過酷でカナダで生まれた自分の生活には繋がらないように見えたし、同じ生存者のあいだにもホロコーストの経験については語りたくない、語ることはできないし語るべきでもない、という考えがあるなか、後回しにしてきた。しかし父とともにアウシュビッツを訪れたことをきっかけに父を通して自分が受けてきた影響と向き合い、ホロコーストについてではなく自分についての本として本書が書かれた。
著者は一時はシェフを志して調理学校に通ったこともあり、多くの章にはその章の話題に関係した料理や食材の名前がつけられている。食がただ生きるための手段でしかなかったように見える父の幼少期ですら、農家に分けてもらったたった一つの卵を友人と分けて食べた父の経験に象徴的なように、食は人々の関係性にも強く影響している。おいしそうだったりひもじそうだったりする描写とともに、ホロコーストをはじめとする歴史的悲劇がそれを直接経験した世代だけではなくのちの世代にも与えるインパクトを実感するとともに、いま世界で起きている悲劇がいまの世代だけでなく将来にわたってどれだけの禍根を残すのかと考えてしまう。