Aram Sinnreich & Jesse Gilbert著「The Secret Life of Data: Navigating Hype and Uncertainty in the Age of Algorithmic Surveillance」
わたしたちがテクノロジーと触れ合うことで、あるいはテクノロジーに感知されることで、自動的に生成・保存されている膨大なデータが、わたしたちが知らないうちにさまざまな形で利用されている事実を指摘し、それによって生じる政治的・社会的問題への対処を論じる本。
政府や企業などによる盗聴・監視・データ収集はかなり昔から行われてきたけれど、かつては技術的な限界やデータ生成・保存・分析のコストがそうした活動の歯止めになっていた。しかしいまではスマホをはじめ常にユーザや周囲の情報を収集・通信するテクノロジーが行き渡り、データを保存・分析するコストも大幅に下がったため、当面なんの利用価値もなくともとりあえずデータを収集・保存しておけば、将来的に市場でオークションにかけるなりAIの学習データにするなり利用できる、という状況になってしまった。スマホが常に放出している電磁波からユーザがなにをやっているのか感知したり、写真に映り込んだ水滴一つから部屋の様子を解析するような技術は既に開発されているし、量子コンピュータが実用化されればこれまで暗号化技術によって秘匿化されていた全てのデータがあっさり復号されてしまうおそれがあるなど、データが取得された時点では誰も思わなかったような形でそのデータが利用される危険は常にある。
まあそういう内容の本で、別に悪い本ではないんだけど、「これまで一般の人にもわかりやすくこうしたことを解説した本はなかった」と書いてあって、いやいやそりゃ違うでしょいまテクノロジー警戒論の本がどれだけ出てると思ってんの?と思ったし、あと生成的人工知能について触れている部分で「この段落は出だしだけをAIに渡して残りを書いてもらった」と言ってるんだけどそのとき使っていたのがGPT-2だったので、「え、これ今年の4月に出版された本だよね?」って何度か確認してしまった。そりゃ本を書いてから出版されるまでに時間がかかるのは分かるけど、2024年に出版された本で生成的人工知能の実例がGPT-2ってのありえる?まああと数年たってしまえばGPT-2とGPT-3やGPT-4の違いなんて大した問題じゃないってことになるかもしれないけど、そもそも数年後読まれることに堪えられる本なのか不安。いや、悪い本ではないんだけどね。