Alicia Roth Weigel著「Inverse Cowgirl: A Memoir」

Inverse Cowgirl

Alicia Roth Weigel著「Inverse Cowgirl: A Memoir

インターセックス活動家でLGBTの権利やリプロダクティヴ・ライツの運動にも関わる著者の自叙伝。先月発売されたPidgeon Pagonisによる「Nobody Needs to Know: A Memoir」に続くインターセックス活動家自叙伝出版ラッシュ。ちなみにインターセックスより性分化疾患(DSD)の方が一般的な用語だけれど本書では「疾患」という言葉に否定的で「インターセックス」という用語を一貫して使っているのでここではそれに従う。

著者は裕福な家庭に生まれた白人女性で、おそらくそれと無関係ではないと思うのだけれど(わたしの経験上、親が裕福な家庭ほど、医者が親にきちんと性分化疾患やインターセックスの診断について説明し隠さない傾向にある)、子どもの頃からアンドロゲン不応症であり(おそらく不必要というか、少なくとも子どものうちにやる必要はない)精巣摘出手術を受けたこと、将来的に妊娠することがないことなどを教えられて育つ。自分の診断について正確に教えられていたという点ではほかの多くの当事者より有利ではあるのだけれど、知ってしまったからこそ彼女はほかの女の子たちとのあいだに距離を感じ、孤独感を経験したり、自分が本物の女の子だと信じたくて男の子たちとセックスしまくって校内でスラット(尻軽女)だと白い目で見られたりもした。でもまあ、性教育で出産シーンの映像を見ることになり生涯出産することのない自分がほかの女の子たちに混じって見ることに不安を感じていたけど、実際に見たら血を見た瞬間にショックで失神してしまい「生命の神秘を見て失神した子」として有名になってしまう話とか、映画「ミーン・ガールズ」に出てきた「プラスティックス」みたいなスクールカースト最高峰のグループに入ってた話とか、学校時代のエピソードが面白すぎて何度か爆笑してしまったので、悲壮感はそんなにない。

お金持ちの家庭の子らしく、当たり前にエリート高校からエリート大学に進学し、海外旅行をして将来はCIAに入りたい!と思っていたけど実際にCIAがどんなことをやっていたか知ってドン引きしたり、世界の貧しい人たちを助けよう!と思って現地に行って自分の傲慢さに気付かされ打ちのめされたりした挙げ句、テキサスで反妊娠中絶の法案の成立を阻止するために13時間に及ぶ長時間演説を行って有名になったウェンディ・デイヴィス元議員に見出され、テキサス州で女性やLGBTの権利を守るための活動に参加。そのなかでトランスジェンダーの人たちに「生まれついた生物学的な性別」のトイレを使うよう定める法案に反対するために、議会に出向いて「自分はXY染色体と精巣をもって生まれた女性ですけどトイレはどうしろと?」的な証言を行いカミングアウト。個人的にこの論法はあんまりよろしくないと思うんだけど、普通なら周囲の人たちに少しずつカミングアウトするはずがいきなり議会の証言でカミングアウトってすごい勇気なのは認める。トランスジェンダーの人たちを迫害するための法律が各地で成立するなか、それらがインターセックスの存在を不可視化し、意図せざるかたちでインターセックスの人たちの権利を危うくしているのも事実。

その後、選挙運動に関わったりインターセックスについてのドキュメンタリに出演したりと活動を広げ、いまでは政治活動と同時にLGBTの起業を支援する活動をやっています的な。自分にとってインターセックスはアイデンティティだ、女性でありインターセックスであるというのは両立する、というのは、かつてであれば多くの当事者には共感を受けない主張だったけれども、インターセックスや性分化疾患をめぐるタブーが軽減し、子どもの頃から真実を告げられ、そしてそれが周囲に受け入れられて育てられる世代が増えていけば、将来的にはアリなのかな、というのはわたしが20年前に思っていたことで、実際にそういう世代が出始めているのかもしれない。