Alexandra S. Moore & James Dawes編「Technologies of Human Rights Representation」

Technologies of Human Rights Representation

Alexandra S. Moore & James Dawes編「Technologies of Human Rights Representation

テクノロジーと人権擁護の関係についての論集。テクノロジーと人権というテーマではVirginia Eubanks著「Automating Inequality」で論じられているような福祉行政や刑事司法におけるアルゴリズムや人工知能利用から、M. Chris Fabricant著「Junk Science and the American Criminal Justice System」やBrandon L. Garrett著「Autopsy of a Crime Lab」で批判されている「科学的」捜査手法などの問題があり、本著でもそれらは論じられているが、「テクノロジー」という言葉をより広く取っているのが本書の特徴。

各国の人権擁護・侵害状況を監視する仕組みについての章では、米国国務省による人権報告のように古くから存在し多数の国を対象としているデータセットが重宝されているがそうしたソースには米国政府の都合によるバイアスがあることも指摘。各国で活動する人権団体や労働団体の報告などをデータに加えると、年度ごと、あるいは国別に同じ基準で比較することが難しくなり、実態に変化がなくてもデータが増えたせいで人権スコアが下がる傾向が生まれるなど、各国の人権擁護・侵害の状況を一貫した基準で記録することの難しさが論じられる。また米軍のイラクやアフガニスタンにおける空爆による民間人への被害についての章では、米軍が犠牲者を「兵役年齢の男性」と表現するなど民間人と武力勢力を混同するような分類を行ったり、米軍から見えていなかった建物や車の中にいた人の犠牲をカウントしないことによって民間による集計と米軍による集計に齟齬が生まれる仕組みを説明。

ほかにも、ソーシャルメディアに報告される性暴力やその他の人権侵害をデータとして集計し被害の広がりを可視化する試みや、ホロコーストの記念碑を記憶の政治のテクノロジーの一種として捉える考え、さらには古臭い文芸フォーマットとされるソネット(十四行詩)を白人至上主義への抵抗のテクノロジーとして活用するアーティストについての章など、テクノロジーという言葉に対する捉え方が広くて刺激的だった。