Aileen Barratt著「Tinder Translator: An A-Z of Modern Misogyny」

Tinder Translator

Aileen Barratt著「Tinder Translator: An A-Z of Modern Misogyny

出会い系アプリTinderで異性愛者男性がプロフィールに書く、一見なんの問題もなさそうだけれど実際には男尊女卑的な価値観が隠されたコードワードをユーモラスに解読する、人気インスタグラムアカウント@TinderTranslatorsの書籍化。AからZまでそれぞれ男性のプロフィールによく見られるフレーズを載せ、それが実際に何を意味するのか「翻訳」して女性たちに警告する。各項目には重要なポイントだけ一言でまとめた「TL;DR」も。

たとえば交際相手にユーモアを求める言葉。これをプロフィールに書く男性は基本的に自分のジョークに笑ってくれる相手を希望しているのであって、ジョークがうまい女性を探してはいない。中にはセクハラや人種差別発言をしても「ジョークだから」と言えば誤魔化せて当然と思っていて、それを許してくれない相手を「ユーモアがない」と決めつけている場合も多い、など。「Not all menね、はいはいわかってますよ全員ではないですよ」と著者。

「バニラ」をはじめBDSMコミュニティで使われてきた言葉や概念がコミュニティ外にも広まっていて、でもBDSMコミュニティが議論してきた合意の重要性や強要の否定などの考えが忘れ去られている、と著者は指摘。たとえばBDSMコミュニティにおいては「バニラ」とは自分たちが行うクィアでキンキーなプレイではない一般的なセックスのことを指していたけれども、出会い系アプリで「バニラな女性はいらない」と書く男性は自分が興味を持つ暴力的あるいは屈辱的な性的行為に文句を言わず付き合ってくれる相手を求めており、多くの女性たちはバニラ=性的魅力のない女性と見られないように本心では望んでいなくても相手の要求に応じるよう追い詰められる。

著者はこれまで異性愛男性としか付き合ったことがないクィア女性で、同性パートナーと付き合ったことがないとはいえクィアコミュニティに属していることで、異性愛の恋愛に対する批判的な距離を取れているのがおもしろい。しかし最近、Jane Ward著「The Tragedy of Heterosexuality」といいLouise Perry著「The Case Against the Sexual Revolution: A New Guide to Sex in the 21st Century」といい、ヘテロセクシュアリティがどんだけ悲劇的なのか痛感する本を続けて読んでいる気がする。ヘテロ、ダメ、ゼッタイ。