Adrienne L. Massanari著「Gaming Democracy: How Silicon Valley Leveled Up the Far Right」
女性ゲームクリエイターやゲーム批評家・ジャーナリストたちを標的とした集団的嫌がらせ事件ゲーマーゲートから、現実をゲーミフィケーションした4chan/8chan/8kunにおけるQアノンや陰謀論的・ヘイト的なミームのゲーム的な拡散、トランプへの称賛でアップボートを稼ぐゲームとなったr/The_Donaldサブレディット、ゲーム的な現実解釈を通したメリトクラシー信仰の普及、民主主義そのものにメタゲームとして介入を仕掛け混乱させる動きなど、ゲームカルチャーとシリコンバレーのギーク文化的な男性性、民主主義を否定する極右政治の繋がりを描き出す本。
序文で著者は自身もゲーマーであることを明かしたうえで、彼女が批判するのはゲームそのものではなく、よりページビューやインプレッションを稼ぎ広告を売るために社会への悪影響を考えないまま現実にゲームの要素を持ち込んだソーシャルメディア・プラットフォームの設計とアフォーダンスだと言う。テクノロジー業界が生み出したビデオゲームというエンターテインメントは、そのロジックがソーシャルメディアを通して現実社会に影響を広げたことで、エンターテインメントの枠を飛び出し、しかしエンターテインメント性を維持したまま、マイノリティの生命や民主主義そのものを脅かすことになった。ソーシャルメディアというゲームは特定の陰謀論を拡散させるだけでなく、陰謀主義と呼ぶべき、さまざまな陰謀論のあいだの矛盾を解消しないまま、とにかく陰謀の存在を発見・告発する行為を奨励した結果、政府やメディア・科学や医療などに対する信頼を徹底的に破壊してしまった。
社会全体を強制的に巻き込んだり、人々の幸せを目的として丁寧に設計されていない現実のゲーミフィケーションのさまざまな弊害については、実際によくデザインされたゲーミフィケーションを採用するフィットネスアプリの開発者であるAdrian Hon著「You’ve Been Played: How Corporations, Governments, and Schools Use Games to Control Us All」にも詳しく書かれているし、Qアノン運動について書かれたWill Sommer著「Trust the Plan: The Rise of Qanon and the Conspiracy That Reshaped the World」でもQによるドロップ(書き込み)の解釈競争が一種の推理ゲームとして拡散された経緯が書かれている。