Tim Wu著「The Age of Extraction: How Tech Platforms Conquered the Economy and Threaten Our Future Prosperity」

The Age of Extraction

Tim Wu著「The Age of Extraction: How Tech Platforms Conquered the Economy and Threaten Our Future Prosperity

バイデン政権でテクノロジー担当大統領補佐官も務めたサイバー法学者の新著。

かつて多くの人がインターネットに対して抱いていた希望がプラットフォームによる囲い込みとレントシーキングによって本来あるべきだった姿とは似てもつかない形になってしまったことを指摘する点では、同じく最近出たTim Berners-Lee著「This Is for Everyone: The Unfinished Story of the World Wide Web」やCory Doctorow著「Enshittification: Why Everything Suddenly Got Worse and What to Do about It」と似た内容だけれど、テクノロジー(やその界隈の思想的なやつ)に詳しくない一般の読者にとってはたぶん一番読みやすいかも。

インターネット以前から商用インターネットの黎明期、ドットコムブームを経て現在のインターネットまで、プラットフォームや市場競争を健全に機能させていた条件がどう奇跡的に成り立ち、そして崩されていったか、歴史を紐解きながら説明していく。もともとテクノロジー肯定論者である著者は人工知能やビッグデータ、暗号通貨などの技術そのものは否定しないものの、それらがいかにテック業界による私的な利益追求のために歪められ社会を不安定化させているか説明するとともに、市場の歪みは経済学が「いずれ自動的に修正される」という結論ありきで次々と繰り出す怪しげな理論に対する反駁は見事。プラットフォームが独占的にふるまうのを阻止し競争の公平性を維持するためには独占禁止法をきちんと適用しテック労働者をふくむ労働者の権利を守ることが必要、というのはドクトロウと同じ結論。

多すぎないページ数で必要なことを過不足なくまとめている良い内容。でも表紙の画像の意味がよく分からないのでだれか説明して。