Adriana Carranca著「Soul by Soul: The Evangelical Mission to Spread the Gospel to Muslims」

Soul by Soul

Adriana Carranca著「Soul by Soul: The Evangelical Mission to Spread the Gospel to Muslims

アメリカによる「対テロ戦争」以降のイラクやアフガニスタンを中心にイスラム教諸国における福音派キリスト教の布教活動についての本。

本書は「ムスリムに対する福音派キリスト教の布教」についての本なのだけれど、大部分はイラクやアフガニスタンが舞台で、少しだけ「アラブの春」後のエジプトや内戦が起きたシリアなどの話も出てくる感じ。イラクやアフガニスタンではブッシュ政権による「対テロ戦争」でアメリカ軍が首都を占拠したあと、西側の援助機関が米軍の庇護のもと多数入り込んで活動をはじめた。その中にはイラクやアフガニスタンの人たちをキリスト教に改宗させようと目論んだ宗教系の団体も多く、表向きには人道支援を行いつつ、メモリカードで聖書や教材を持ち込むなどして布教活動を行った。

しかしどちらの国でも、武装勢力による抵抗は続き、アメリカから来た福音派の宣教師たちは身の危険を感じて撤退。そのあとを継ぎ、アメリカの福音派教会の資金で布教活動を続けたのは、南米やアジア・アフリカの宣教師たちだった。アメリカの福音派キリスト教と南米のカトリック教会から生まれた解放神学が組み合わさり、これまで福音派キリスト教とは縁がなかった国でも福音派教会が勢力を増しており、かれらはアメリカ人でも白人でもないことから現地の人たちの反発を浴びることなくこっそり布教活動を行うことができた。しかしかれらがタリバンやISISのターゲットであることは違いなく、非白人の宣教師たちが白人からお金だけ渡されて危険な任務に就かされたという側面も。また福音派キリスト教に改宗した現地の人たちの身にも危険が及んだが、トランプによるムスリム移民規制や米軍撤退時の大混乱などに翻弄された。

どの国であっても宗教は自由であってほしいと思いつつ、軍隊の占領地に布教地域を広げたり人道支援の建前で布教活動を行うような植民地主義的な布教活動はイヤだし、女性やクィアの権利に否定的な福音派キリスト教が世界中で広まるのも勘弁してほしいんだけど、伝統的にカトリックの多い南米やコプト教会があるエジプトでも福音派が増えているというのは知らなかった。あとブラジル人の宣教師はどの国に行ってもサッカーを通して受け入れられるという話はおもしろいというか、サッカーすごい。