Kaila Yu著「Fetishized: A Reckoning with Yellow Fever, Feminism, and Beauty」
日本で言うところのグラビアモデルやレースクイーンとして、そして俳優やミュージシャンとして活動してきた台湾系アメリカ人の著者が、アジア系女性として押し付けられてきた、そして自分もそれに加担し自分より若い女性たちを巻き込んでしまった、アジア人女性に対するフェティッシュ的な性的対象化の眼差しと、モデルとして活動をはじめた初期に性暴力を受けそれを撮影した映像を勝手にポルノとして販売された過去と向き合う本。
保守的な台湾系移民の家族に反発し、より自由な生き方を求めた著者は、自分に年上の白人男性たちが性的関心を向けていることに気づき、かれらに迎合することでモデルとして成功することを夢見るようになる。当時はまだメディアではアジア人女性の表象は限られており、成功するためには白人男性が理想化する「フェミニズムの影響を受けた生意気な白人や黒人の女性とは異なり、大人しく受動的で性的に求められれば拒めない、身体的にも小さく若く見えるアジア人女性」にハマらないことにはエンターテインメント業界に居場所はなかった。著者自身もそうした価値観を内面化し、また性暴力とポルノ被害を受けた結果自分の身体を受け入れられなくなったこともあり、何度も外科形成手術を受けたりアルコールやドラッグに依存。
著者は白人男性たちがアジア人女性に向けるフェティッシュ的な視線をアジアに対する植民地主義やアジアでアメリカが戦ったいくつもの戦争の影響とともに、ゲイシャや「女体盛り」などアジアの文化のごく一部を切り取り面白おかしく曲解する文化的暴力などと結びつけ、限られた席をめぐってアジア系女性たちが競争させられ使い捨てにされていくことを指摘する。また同時に、K-popの育成システムやAKB商法、ペドフィリアに寛容で女性の性的対象化が激しいアニメ文化などアジアのエンターテインメント業界が女の子や若い女性を食い物にしている状況も厳しく指摘。著者にとって痛恨なのは、自分自身がある程度地位を築いたことで、後輩のより若いアジア人女性たちをエンターテインメント業界のレイプ・カルチャーに巻き込み、グルーミングすることに加担してしまったこと。
コロナウイルス・パンデミックによりアジア人女性に対する暴力が頻発し、2023年にはアトランタ郊外でアジア系マッサージ店で働く女性たちを標的とした銃乱射事件が彼女たちの存在を「性的に自分を誘惑する悪」だとみなした白人男性によって起こされたことに衝撃を受けた著者は、長年の闘争を経てついにネットから自分に対する性暴力の映像を削除することに成功し、性的なトラウマとも折り合いをつけるとともに、身を削り血を吐きながら(比喩的に)本書を書き上げた。すごい。