The Band of Sisters著「You Should Smile More: How to Dismantle Gender Bias in the Workplace」
アメリカの企業社会のなかで女性の地位を向上させる試みを続けている女性ビジネスリーダーのグループによる著書。「The Band of Sisters」は主にペプシコ(ペプシコーラの会社)の幹部としてお互いに出会った女性たちが結成したグループで、それぞれ独自に、または共同で職場におけるダイバーシティなどの問題に取り組むコンサルティングを行っている。
世界的な大企業であるペプシコの、しかもCEOをはじめとする幹部ポジションに着いたことのある女性たち(写真を見る限り、一人を除いて全員が白人っぽい)が書いた本だけあって、大多数の一般の女性労働者の経験とは少しかけ離れたものがあるなあと思いつつ、しかし彼女たちもかつては性差別やバイアスによって機会を与えられなかったり悔しい思いをした経験を持ち、そこまで苦労して、そして時には運や巡り合わせに恵まれてトップに登りつめたのに、自分たちの下の世代の女性たちはいまだに自分たちと同じ苦労をしている、という気付きから本書は出発している。もちろん成功した人たちの経験だから主に理解のある上司に恵まれてうまくいった話もたくさん書かれているのだけれど、当人たちの努力はもちろんとして、同時にそれがごく例外的な幸運な状況によってもたらされたものであることも分かる。
本書では章ごとにワーク・ライフ・バランスや昇進・昇給など女性のキャリアに関係するさまざまなトピックをおさえつつ、それぞれにおいてキャリアを積もうとしている女性労働者、その周囲にいる人たち、そして上司に対するアドバイスが紹介されている。もちろん周囲の人や上司が個別の女性を応援することはできるけど、企業文化の男性中心主義はそういったレベルで対処できる範囲を大きく超えており、企業文化を変えるよりは女性が男性社会に合わせる方向のアドバイスが多いのは仕方がないとはいえ、「仕方がないけどこんな状況はクソだ」ともっとちゃんと言って欲しかった。たとえば企業の男性同士が業務の外でゴルフやスポーツの話題や釣りや狩猟、カジノ旅行などで結びついてキャリアを登る機会を得ていることについて、女性がそれらの趣味に合わせることしかそういった機会に近づく方法がないとか、まじクソ。ほかにも、女性は男性に比べて些細なことで謝ることが多いが無能に見えるのでやめたほうがいいとか、それって女性が変わることでしか解決できないの?と思ってしまう。
あと、東京オリンピックの委員長だったモリという奴が「女性は話が長いから女性がいると会議が長引く」と発言して辞めさせられた、というエピソードが紹介され、実際にはほとんどの会議においてダラダラ話しているのは男性だよ、という話になっているのだけど、そのモリが単なるオリンピック委員長じゃなくて元首相であることを書いていないのは日本の評判にとってラッキー。