Serhii Plokhy著「Atoms and Ashes: A Global History of Nuclear Disasters」

Atoms and Ashes

Serhii Plokhy著「Atoms and Ashes: A Global History of Nuclear Disasters

アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験で日本の漁船・第五福竜丸の船員が被爆した事件から東日本大震災によって起きた福島第一原発の事故まで、第二次世界大戦後に起きた6つの放射能をめぐる重大な事件や事故について詳しく記した本。アメリカ・ソ連・イギリス・日本のそれぞれの社会状況や政治体制においてどのようにして事件や事故が起きたのか、どのように対処したのか、そして政府はどのように隠蔽もしくは情報公開したのか、といった点が掘り下げられており、技術的な問題や政治的な問題とならんで市民、とくに少数民族や先住民の健康を軽視し、かれらを治療するのではなく放射線被曝のデータを取るためのサンプルとして扱う大国の動きなど、うんざりした思いを抱きつつ読み進めた。

著者は冷戦史とウクライナ史を専門とする米国の学者で、チェルノブイリ原発事故とそれに対するゴルバチョフ政権の対応についての記述が特に鋭い。とはいえ内容は客観的で、二酸化炭素排出削減が叫ばれるなか、原子力の平和利用を進めるべきなのかどうか、意見を押し付けるようなことはなく、どういう危険があるのか、それに各国はどう対処してきたのか説明することで、人々が原子力利用の今後を議論するために必要な知識を提供している。核の事件で人々の健康が害される話なんて読んでいて楽しいわけがないし、ほんとうにうんざりしたけれども、広く読まれてほしい。