Sarah Thornton著「Tits Up: What Our Beliefs About Breasts Reveal About Life, Love, Sex and Society」

Tits Up

Sarah Thornton著「Tits Up: What Our Beliefs About Breasts Reveal About Life, Love, Sex and Society

乳がんにより両胸の乳房を切除し、その後再建手術を受けた著者が、性労働者や母乳バンクのドナーや利用者、乳房再建手術・豊胸手術・胸部女性化手術という似通ってるけど違う名前を与えられた手術を行う医者、ブラのデザイナーら、乳房の専門家の女性たちに取材した本。

英語には乳房を指す別称やスラングが700以上もあるとされ、その多くが主に男性によって使用されている。本来性的なものではないのに近代欧米社会において男性の性的な視線の対象とされてしまっている乳房だが、本書は男性の性的関心ではなく女性の経験に主眼を置き、性労働者たちが乳房をどう収入に変えているかという話はもちろん、医者やデザイナーに取材するときも女性が自らの経験を踏まえてどう仕事に向き合うかという姿勢で一貫している。また、序盤で友人の娘のトランス女性に触れながら「自分が受けた乳房再建手術は、自分のアイデンティティや社会的な視線に関係するものという意味では、トランス女性やトランス男性が受ける胸部の手術と変わらない」と書かれているように、トランス女性やトランス男性の経験もセンシティヴに扱われていて安心して読めた。