
Sara Moslener著「After Purity: Race, Sex, and Religion in White Christian America」
1990年代以降に白人福音派キリスト教によって推進された性的な「純潔文化」の研究から、それが白人キリスト教ナショナリズムにおける排他的な「純血主義」とどう繋がっているかを明かす本。
著者は保守的なキリスト教家庭で育った白人女性で、研究者としては純潔文化による弊害、とくに女性や同性愛者に対する自己否定の押し付けや性暴力の隠蔽などについて調査してきた。なかでも「元福音派(exvangelical)」と呼ばれる、福音派キリスト教から離脱した人たちの調査では、かれらが必ずしも信仰を失ったわけではなく、福音派教会による純潔主義や右派政治への傾倒への反発がかれらの離脱の大きな理由であることを示す。
白人福音派キリスト教と右派政治が合流した白人キリスト教ナショナリズムにおいて性的な純潔主義と人種的な純血主義は結びつき合い、白人女性はいっぽうでは性的にイノセントであることを求められ、男性による性的侵害の責任を押し付けられるとともに、他方ではアメリカのイノセンスを守るために異性愛結婚を経て白人の子どもをたくさん産むよう求められる。純潔主義の推進や性虐待の隠蔽は決して白人教会だけに限った話ではないが、それが白人至上主義と結び付き移民や非白人への攻撃に繋がっている点で白人福音派教会の問題は根深く、それに馴染めない多くの若者が離脱した結果、さらに純化しつつ、どう見ても信仰心がなさそうな右派インフルエンサーらが福音派にすり寄ったりして信仰と政治の同一化が進んでいる。
純潔文化の研究としても白人キリスト教ナショナリズムの研究としてもかなり後発で、しかも短めで内容も薄いのだけれど、「元福音派」に対するインタビューの部分は興味深いし、「純潔」と「純血」の結びつきをわかりやすくまとめている点は評価できる。入門編としては十分かも。