
Ryan D. Griffiths著「The Disunited States: Threats of Secession in Red and Blue America and Why They Won’t Work」
アメリカで進む政治的分断への究極の解決策として右派・左派双方から国家の分割や一部の独立分離を求める声もあがるなか、国際的・歴史的な事例などを参考にしながらアメリカが分割や分裂に至るいくつかのシナリオを考察しつつ、その非現実性を論じる本。
アメリカの政治的分断の深刻さはもはや論じるまでもない。大統領選挙のたびに大半の州が民主党と共和党のどちらの候補に予想されたとおり掌握されるなか、ごく僅かに残された接戦州をめぐって激しいメディア戦が争われ、そのいくつかの州のほんの1%前後の差異で当選者が決まる。どの州においても多様性があり人口密度の高い都市部では民主党が支持を集め、白人が多く人口密度の低い田舎では共和党の支持者が多いが、後者に有利に作られた選挙制度によって2000年や2016年の大統領選挙では総得票数の少ない候補が大統領に当選したし、2020年の大統領選挙では落選した候補が選挙不正があったとして支持者を扇動してクーデター未遂まで起こした。こういうなか、両党の支持者のなかから、あんな連中とはやっていけない、考えが近い地域だけでまとまってそれぞれ好きに内政を行ったほうが良いのではないか、と考える人が出てくるのもある意味当然。
しかし歴史的には、国家の分割や分離独立が平和裏に行われたケースはチェコスロヴァキアの分割のような限られた例しかない。国家分割がうまくいくのは、もともと民族や文化の面で棲み分けがなされており、しかも双方に行政機構がきちんと整備されている場合だが、現状のアメリカではそのようになってはいない。たとえば保守的なテキサス州でも州都オースティンやヒューストンなど大都市では民主党支持層が多いし、リベラルなカリフォルニア州やニューヨーク州でも少し都市部を離れれば共和党支持者が多く住んでいる。仮にアメリカを保守的な国とリベラルな国の2つに分割するとしても、保守的な州の都市部に住んでいる人は黙っていないし、リベラルな州の田舎に住んでいる人たちも同じ。かといって州単位ではなく全国に435ある下院選挙区ごとに分けるとしても、党派的なジェリマンダリングにより歪な形の選挙区が多く、飛び地だらけの混沌とした国になってしまう。むしろ「奴隷制に賛成か反対か」という軸で地域ごとにきっちり分かれていた南北戦争の時代のほうが国の分割はうまくいく(奴隷制を存続させておいてうまくいっていると言えるのかという疑問はあるが)可能性はあった。
国の資産や行政機構、軍、国際的な地位をどのように分配するのかという問題もある。ソ連が崩壊したときにはロシアがその後継国家として国連安保理常任国の地位ほかを引き継いだが、保守アメリカとリベラルアメリカのどちらがそれを継承するのかお互い譲らないだろう。州ごとに分割するとなると保守アメリカに取り残されるヒューストン・サンアントニオ・ダラスなど大都市の住民が黙っていないし、選挙区ごとあるいは郡ごとに分割するとしたらほとんどの大都市とともに税収源を失う保守アメリカ(最大都市はフロリダ州ジャクソンヴィル)にとっては苦しいことになる。保守アメリカの中に取り残されたリベラルな地域やその逆をめぐって両国がその帰属を取り合ったり、お互いの住民のあいだの迫害や排斥、なかば強制的な移住などが起きるなか、政治的分断はむしろ深まると思われるが、そうした緊張関係のある両国が飛び地や入り組んだ国境を抱えながら軍事や交通、産業、貿易などの点において問題なく協調できるという見込みは楽観的すぎる。同じ考え方の人たちが住む土地だけで独立して自由に暮らしたい、というのはこのように、実際には非現実的だ。
もしアメリカの分割が行われるとしたら、それは分断の進行による決定的な武力衝突を防ぐための平和的な解決方法ではなく、すでに武力衝突が起きたあとで結果としてもたらされるものだと著者は指摘する。その一つの可能性として著者が指摘するのは、たとえば次かその次の大統領選挙で左派的な民主党候補とトランプJr.などトランプの後継者となる共和党候補が立候補し、民主党候補が当選するけれど、選挙に不正があったとして共和党候補がフロリダ州にあるトランプ所有のプライベートクラブ兼別荘のマー・ア・ラーゴで「暫定政権」の設立を宣言し、米軍をはじめとする政府機関に命令を発するといったシナリオ。叛乱の鎮圧を目指すホワイトハウスの政権とマー・ア・ラーゴ政権とのあいだで武力衝突が起こり、その最終的な結果として国家が分断される可能性があると。
いずれにせよ、いまのアメリカが陥っている深刻な政治的分断の問題を平和的に解決するための手段として国家を分割してそれぞれの国がお互いを尊重して自分たちの価値観に基づいた内政を行うという案はまったく使えない。そうした問題をどうにかするにはやはり政治的分断そのものに手を付ける必要がある。最後に著者は、なんだかんだ言ってもアメリカにはまだすばらしい点があるのだとか、アメリカが分割して力を失ったらロシアや中国の拡張主義に誰が対抗するのだと言うのだけれど、しかし覇権国家として既に自分たちにとって都合いい国際秩序を築いているから現状維持勢力だと思われていたアメリカがはっきりと拡張主義に走って手が付けられないようになりつつある現状、なんとも言い難いとしか。
著者が言うように、永遠に続く国なんてないし、アメリカもいつかは終わる。しかし平和的な国家分割によりアメリカが2つかそれ以上の国として生まれ変わるというシナリオは想定が難しく、もし分割されるとしたらそれは内戦の結果である可能性が高い。平和的な分割に比べたら、どれだけ先になるかは分からないけれども、北米連邦や世界連邦といった超国家的機構によって置き換わられる可能性のほうがまだ高いのではないか、というのは説得力を感じた。