Rita Omokha著「Resist: How a Century of Young Black Activists Shaped America」

Resist

Rita Omokha著「Resist: How a Century of Young Black Activists Shaped America

子どものころ両親とともにナイジェリアからアメリカに移住しブルックリンで育ったジャーナリストの著者が、20世紀前半から現代まで黒人の若者たちが運動を通してアメリカを変革してきた歴史を紐解く本。

著者が本書を書くことになったきっかけは、2020年にジャーナリストとして全国をまわりブラック・ライヴズ・マターのプロテストを取材したこと。それまで著者は自分のことをアフリカ系アメリカ人ではなくナイジェリア人だと自認しており、奴隷制を経験しそれと戦ってきたアフリカ系アメリカ人と自分たちナイジェリア移民一家は違うと感じていたが、取材を通して各地でプロテストを繰り広げるたくさんの若い黒人活動家たちと触れ合うことで「アメリカの黒人」としての意識を深めていった。第一次世界大戦から第二次世界大戦までのジム・クロウ時代、公民権運動からブラック・ナショナリズムまでの時代、そして1990年代にクリントンやバイデンらが推進した大量収監政策からオバマ政権とブラック・ライヴズ・マターまでの時代、という三つの区分を通して十代や二十代前半の若い黒人たちの100年に及ぶ抵抗の歴史を綴る本書は、著者がそうした歴史を自分に繋がるものと受け止め、内面化していくプロセスでもある。

自分たちが通う(人種隔離)学校の設備改善を求めて立ち上がった高校生から、白人女性に対するレイプを捏造されて投獄された十代の黒人少年たち、南部の大学のチームと対戦するときに黒人選手を試合に出さないことで南部の人種隔離政策に配慮した自分たちの大学に抗議した学生たち、公民権運動に参加し非暴力抵抗で逮捕された若い活動家たち、南アフリカのアパルトヘイト政策に対する国際的なボイコット運動を先導した学生運動など、よく知られたものからもっと知られるべきものまで、過去100年ほどのあいだ人種差別と戦ってきた人の多くが、当時は十代や二十代前半の若い黒人たちだったことを再認識させられる。かれらの多くはもともと活動家になろうとしたのではなく、たまたまジョージ・フロイド氏が警察に殺害される現場に居合わせてとっさにスマホで動画を撮影したダーネラ・フレイジャーさんのように、偶然と巡り合いで運動に関わり、その中心的な役割を果たしてきた人たち。

わたしにとって個人的に嬉しいのは、2020年のブラック・ライヴズ・マター運動の取材で(というか生まれてはじめてプロテストの現場に向かった際に)著者が最初に出会い、また詳しく記述しているのが、16歳のレイラさんという黒人女性が中心となって創設したポートランドのPDX Black Youth Movement(ポートランド・黒人ユース運動)というグループ。ポートランドはミネアポリスやDC、シアトルと並んで連日抗議活動が活発だった街の一つだけれど、メディアの報道では(白人)アナキストが警察を相手に暴れている、的な扱いが多くて、わたしが当時生配信で見ていた若い黒人たちの存在がかき消されていたので、レイラさんや彼女の仲間たちの行動がきちんと記録されているのがうれしい。シカゴのBY100やフロリダのDream Defenders、全国的な団体としてはCampaign ZeroやBLM Global Networkなど、2010-2020年代を代表するさまざまな運動団体も、その中心にいたのは若い黒人たちだった。

もともとナイジェリア人としてアフリカ系アメリカ人の抵抗を外から見ていた、そして著者自身も認めているとおり、アフリカ系アメリカ人に対する優越感すら時には感じていた著者が、自分に近い世代の黒人活動家たちと出会い、かれらに連なる歴史を自らのものとして受け入れ勇気づけられていくのが分かり、そこが本書の一番の魅力となっている。単なる歴史の記述ではなく、歴史をわたしたちがどう受け継いでいくのかという観点から考えさせられる。