Ramin Setoodeh著「Apprentice in Wonderland: How Donald Trump and Mark Burnett Took America Through the Looking Glass」

Apprentice in Wonderland

Ramin Setoodeh著「Apprentice in Wonderland: How Donald Trump and Mark Burnett Took America Through the Looking Glass

ドナルド・トランプとかれが2004年から出演していたリアリティ番組「The Apprentice」について長年取材してきた著者が、大統領退任後のトランプへのインタビューを含め、番組で起きたさまざまな騒動と混沌を極めたトランプ政権時代のホワイトハウスの関連性を論じる本。

トランプの弟子を目指す一般人たちが出演してさまざまなタスクで競争し、毎回最後には誰かがトランプから「You’re Fired(お前はクビだ)!」と宣告されて脱落していくリアリティ番組「The Apprentice」は、リアリティ番組の初期ヒット作「Survivor」を制作したマーク・バーネットがプロデュースした新しいシリーズ。一般人参加者たちが競争し最後に残った人が優勝、という「Survivor」と同じモデルを離島やジャングルではなくビジネス界で行う、というコンセプトを考え出したかれは、第1シーズンのホストとして目立ちたがりでゴシップも絶えないドナルド・トランプに目をつけかれに接触。トランプの側近はリアリティ番組の出演なんてやめたほうがいいとアドバイスしたが、バーネットはトランプの自伝は人生で最も感銘を受けた本だ云々と褒めちぎり、トランプをその気にさせる。

もともとは忙しいビジネスリーダーがリアリティ番組に継続的に出てくれるはずがないと考え、シーズンごとに異なる経営者にアプローチするつもりだったが、「You’re Fired!」というトランプの決め台詞が流行り番組が人気を博したため、第2シーズン以降もトランプが出演することに。どうやらかれは身内に経営のほとんどを任せていて本人はそれほど細かくビジネスに関わっていなかったようで時間的には問題がなかったものの、第2シーズンでは人気シットコム番組「フレンズ」の主演級俳優6人分と同じ謝礼を毎週寄越せと要求したため交渉は難航。結局大幅な謝礼アップとともに、番組内にさまざまなスポンサーを関わらせ(たとえば番組内の参加者のあいだの競争で、スポンサー企業の新商品のプロモーションを考えさせる、など)そこからお金をトランプが受け取るという契約を結ぶ。その際トランプは「The Apprentice」の視聴率がほかのどの番組よりぶっちぎりで高いと主張し、20年後のいまでも当時どれだけ多数の視聴者がかれの番組を見たか自慢しているが、かれの言う数字は当時から事実とかけ離れていることが指摘されていた。トランプは2017年の大統領就任式に駆けつけた聴衆の人数が史上最大だった、という航空写真を見れば明らかに事実に反する主張を繰り返したが、それとほぼ同じことを当時からトランプは続けていた。

思いつきであれこれ言い出して収録現場を混乱させたり、息子や娘夫婦らを審査員として採用し自分の代弁者としたり、ほかにも当時の番組とホワイトハウスの共通点は多い。2016年の選挙の直前にトランプが「気に入った女性がいればなにを言わずに勝手に性器を触る、有名人なら何をやっても問題にならない」と発言したテープが公開され批判されたが、そのテープが録音されたのもリアリティ番組の現場。ほかにも当時番組に出演していた人たちがトランプは黒人に対する差別用語を連発しておりテープに残っている、と発言しているが、いまのところそうしたテープは発見されていない。出演者の一人でリアリティ番組の中で悪役を割り当てられたが人気が出てホワイトハウスに勤務したあとクビになり暴露本も出したオマローサや、番組の人気が低調となりテコ入れのために企画されたセレブリティ版の出演者とのイザコザ、スピンオフで司会をつとめたマーサ・スチュワートやアーノルド・シュワルツェネッガーとの対立など(シュワルツェネッガーは「You’re Fired」ではなく「You’re Terminated」と言っていたらしい…見てないけど)、ああそうだったトランプ時代のホワイトハウスってこんなだった、と嫌な思い出が浮かんできた。

しかしまあ、リアリティ番組だからって面白半分でトランプみたいなやつにプラットフォームを与えてしまってはいけないよね、という当たり前の教訓の取り返しのつかなさが怖い。