Rachel Adams著「The New Empire of AI: The Future of Global Inequality」
無規範なAI開発・推進がもたらす新植民地主義と国際的な不平等の拡大についての本。
本書が取り上げるのは、コンゴ民主共和国におけるコバルト採掘に関係した環境破壊や労働搾取の問題から、OpenAIのサム・アルトマンが新たなコンセプトの暗号通貨を作るためにケニアの人たちの生体情報を収集した件や、アフリカやアジアの人たち、とくに避難キャンプに住んでいる難民たちがソーシャルメディアのコンテンツモデレーションのために働いて精神的トラウマを抱えている(そしてかれらの労働がデータとしてさらなるAI開発に利用され、いずれは職を奪われる)事実など多岐にわたる。本書はそうした労働搾取や健康被害などが、過去の植民地主義と比べられ、あらたな反植民地主義運動の必要性が示される。
アメリカのボルティモアで試験導入された航空監視プログラムについて書かれたBenjamin H. Snyder著「Spy Plane: Inside Baltimore’s Surveillance Experiment」では、さまざまなテクノロジーそのものの弊害だけでなく、信頼性も安全性も確認されていない未熟なテクノロジーがアメリカ国内の黒人や貧困層、あるいはアフリカやアジアの人たちに対して実験的に使用される際の、「実験対象とされること」の暴力が指摘されていたが、本書にも上記のアルトマンの件のほかにさまざまな例が挙げられる。先進国では、あるいは白人や中流階級以上の人たちに対しては決して使われない実験的な技術が、それ以外の人たちを対象として導入され、成功したらそのデータをもとにさらに導入を拡大し、失敗したら被害者を放置してまた別の実験に取り組むといったパターンは、シリコンバレーの長所とされていたイテラティヴでアジャイルな技術開発や実用最小限の製品といったコンセプトが現場において生み出している被害を明らかにしている。