Prentis Hemphill著「What It Takes to Heal: How Transforming Ourselves Can Change the World」

What It Takes to Heal

Prentis Hemphill著「What It Takes to Heal: How Transforming Ourselves Can Change the World

ブラック・ライヴズ・マター国際ネットワークのメンバーだった黒人クィア・ノンバイナリー女性を自認する著者が、社会変革を実現するために必要となる「癒やし」の公正性(ヒーリング・ジャスティス)について綴る本。

社会運動のなかで「癒やし」について語ると、いくら自分自身を癒やしても気候変動は止められない、戦争も警察による暴力も経済格差も無くならない、自堕落であるとして咎められることもあるが、著者をふくめ日常的に暴力や差別に晒されている人たちは自らを犠牲にして運動に没頭するよう要求する左派活動家たちにはついて行けない。むしろそうした運動業界の論理こそが資本主義が求める生産性主義の裏返しであり、運動が人々を生産性によって追い詰めてはいけない、と著者。

もちろん著者が訴えるのは、社会的な問題を個人的なケアによって解消するよう求めるセルフケアの推奨ではない。どのような社会を求めるのかというヴィジョンにはじまり、共同的なケアの充実をどう運動に盛り込み、内部対立にどう対処するのか、うまくいかないときどう再始動するのかなど、ブラック・ライヴズ・マター運動やそれに繋がるさまざまな運動のなかで語られてきたことが短くまとめられている。

個人的にわたしは癒やしの概念がすごく苦手で、わたしの周囲にはヒーリング・ジャスティス運動のなかでけっこう指導的な立場にいる人たちもいるのにわたし自身は今ひとつコミットしきれないでいるのだけれど、本書で論じられているようなことはもっと広まってほしいので広く読まれて欲しい。