Nikkya Hargrove著「Mama: A Queer Black Woman’s Story of a Family Lost and Found」
薬物依存のある母親によってなかば育児放棄されながら逆に母の面倒を見ながら育った黒人クィア女性の著者が、年の離れた弟を母親のかわりに育てることを決心し、自分が与えられなかった家庭を弟に与えようとして苦闘した経験を綴った本。
薬物所持などの罪で刑務所を出入りしていた母が弟を生んだのは、著者が大学を卒業し、ようやくこれから自分の人生を生きようとしていた時期。生まれたばかりの弟の体内に高濃度の薬物反応があったことで病院が児童保護局に通報し、一時的に弟が家族から引き離されるが、今度こそはきちんと育てたいと願う母親のために著者が引き取り人となり母が弟を育てるのを支えることに。ところが母は持病により急死し、弟は再び家族から引き離されそうになる。仕事も順調で彼女もいた著者は、「あなたが自分の人生を犠牲にする必要はない」という周囲の反対を押し切り、母親のかわりに自分が弟を育てることを決意する。
弟の父親は分かっていたのだけれど、自分が父親だとは限らないと言ってDNA鑑定を要求し、その結果父親であることが確定してもなんの責任も取ろうとせず、養育費も払わないばかりか、弟を利用して著者と付き合おうとする始末。弟がかれの父親と触れ合うことも必要だと思った著者は弟が父親とともに週末過ごせるようにするが、帰ってきた弟は食事もほとんど与えられないままで何も話そうとしないばかりか、次に父親に会わせようとすると行きたくないと泣き叫ぶほど。ところが著者が女性のパートナーとともに弟を育てていることを知った父親は、養育権は自分にあると言い出す。どう考えても著者のもとで育てられたほうが子どもの利益になりそうだけれど、著者は弟にとって父親の異なる姉でしかなく、実際の父親のほうが有利という状況のなか、著者はやむを得ず自分に養育権を残したまま共同親権を受け入れる。それでも養育費を払おうとしない父親は相変わらずクソだけど、最終的に「養育費を払いたくないなら、正式に弟を自分の子どもとして養子にさせてくれ」と要求し、父親がそれに同意したら気が変わらないうちにすぐに書類に署名させ、著者は法的にも弟の母親になる。
めっちゃいいパートナーの彼女と結婚し、育児放棄されたトラウマとも向き合い、黒人でクィアな母親としてさまざまな困難と戦いながら自分が経験できなかった家庭を築いていった著者の話はとても素敵で、いろいろ勇気づけられるし、こういう家庭がもっと支援されるような社会であってほしいと思う。と同時に、薬物依存症のあった母親が刑務所に入れられるのではなくもっと適切な支援を受けられたら、母親ももっと長生きできたかもしれないし、著者もより良い家庭で育つことができたのにな、という視点も大事。本書が書かれた時点で弟は17歳だが、これからのかれの人生が良いものであるように願う。