Nico Lang著「American Teenager: How Trans Kids Are Surviving Hate and Finding Joy in a Turbulent Era」
各地でトランスジェンダーの子どもたちへの攻撃が激しくなるなか、全国をまわり8人のトランスジェンダーやノンバイナリーのティーンたちとその家族に密着し取材してかれらの現実の生活について伝える本。
ティーンたちの置かれた状況は地域によってさまざまで、親や周囲の人たちが子どもの性自認や望む名前を尊重することを「児童虐待」として扱いそうした親元から子どもを引き離そうとする政策が実施されている地域もあれば、理解のあるコミュニティや学校に恵まれ普通に生活している家族も。イスラム教のモスクでそれまで女性と一緒に礼拝していたのにカミングアウトしたらすぐに男性側に受け入れられた子どもの例とか、意外なパターンも。
本書に出てくるなかで最も恵まれた環境にあるのは、最後に出てくるカリフォルニア州トーランス在住の日系人家庭の子なんだけど、全国で自分の娘のような子どもが攻撃されていることを知りヘイトと戦うため精力的に声を上げて活動している母親と、自分はただ友だちと一緒に好きなことやっていたいだけなのにトランスジェンダー関係の活動に巻き込もうとしてくる母親ウザい、的な感じの子どもの対比がおもしろい。近くのグレンデールでも反トランスジェンダー運動が起きているなか、お前は自分が全国の大勢のトランスジェンダーの子どもたちと比べてどれだけ恵まれているのか分かっていないのか、と憤る親ももっともだけど、そんなこと子どもの責任じゃないし、当たり前に無邪気で自由にK-Popやゲームに熱中できる普通の子ども時代を過ごせるってのはとても大事だとも思える。
彼女のほかにも、うまくいっている子どもほど自分がトランスジェンダーだということを特に意識せず、普通に友人関係や趣味やデートに夢中になっている一方、多くの大人たちが教育委員会などでヘイトを撒き散らした結果、ごく普通の学校生活ができないくらいに追い詰められている子どもたちも多い。ただ地域社会や学校の対応はまちまちだとはいえ、基本的に本書には親の理解を得られていない子どもは登場しないので、実際には本書に書かれている以上にもっと苦しめられている子どもたちがたくさんいるということは覚えておきたい。