Emily Baker-white著「Every Screen on the Planet: The War over Tiktok」
TikTokをめぐるアメリカと中国の対立についての本。TikTokがどのように始まり、ユーザの支持を集めたのかといった話題にも触れられているものの、本書の大部分はTikTokを国家安全保障上の脅威だと捉えその禁止かアメリカ資本への売却を求めるアメリカの政治家たちと、中国発のプラットフォームではじめてアメリカ市場を制覇したTikTokを自らの影響下に置いておきたい中国政府の対決について。
まあこの対立が混迷している一番の理由は、トランプがその場の思いつきで好き勝手やってきたことにある。そもそもTikTok禁止を言い出したのはトランプの第一次政権で、若いK-Popファンたちに政治集会のチケットを大量に予約入れられてキャンセルされて激怒したりしてたけど、バイデン政権になってもTikTokを危険視する姿勢はかわらなかった。ロビー活動を強化してなんとか凌ごうとしていたTikTokがアプリを通してユーザたちにアメリカの議員たちに圧力をかけるよう呼びかけるという大きなミスを犯したことで議員たちは「中国がアメリカの民主主義を脅かしている」という危機感を募らせ、ついにTikTokのアメリカでのサービスの売却を求める法律が成立。
しかしそこで横槍を入れてきたのがトランプ。バイデンがTikTok禁止を求めるなら自分は擁護する、というわけのわからない形で介入し、積極的にTikTokを選挙に利用し始めると、トランプ陣営に有利なコンテンツが不自然にTikTokで拡散されるようになる。トランプが当選するとバイデンが退任する前日に法律に従ってTikTokはアメリカ国内でのサービスを一時停止しそのことをユーザに伝えたが、翌日トランプが就任して大統領令によってTikTokの運営継続を認めると「トランプのおかげでサービス再開しました」とトランプに手柄を与えるメッセージをアプリが発信。だめだこいつら、議会対策ではやらかしたのにトランプの操縦法をよく分かっていやがる…
で、大統領令はTikTokが法律を破って運営を続けることを認めるとともに、バックエンドを提供しているオラクルやアプリを提供しているアップルやグーグルに対しても法律に違反してそれらの継続を認める内容なんだけど、大統領が企業に対して国家安全保障に関わる法律に違反することを認める(起訴しないと保証する)こと自体異例だし、そもそも時効は5年なのでTikTokやその運営企業であるバイトダンスだけでなくアップルやグーグルも次の政権によって摘発されるおそれがあり、決して安心できない内容。まあそうならないようにTikTokのアメリカでの運営をオラクルに買収させて、メタやXとともに政権側のプロパガンダプラットフォームとして利用するのをトランプは目指してそう。
中国政府の側ももちろん、TikTokのアルゴリズム輸出を禁止するなどの措置を取り、アメリカによるプラットフォーム強奪を阻止しようとはしているけれど、究極的には中国政府にとって都合の悪い情報をシャットアウトできる体制さえ温存できれば譲れないこともない。こうしてアメリカと中国の権威主義的な指導者たちにより、お互いの利益を守りつつ国内でのプロパガンダに利用できる体制が整えられつつある。中国政府の言論統制の問題はあれど、たった一つでもアメリカ資本でない大手プラットフォームがあるのは良いことだと以前は思ってたけど、その中国政府とアメリカ政府が言論統制で協調してしまうという地獄のような結末がもう近くまで来ている。民主主義に寄与するソーシャルメディアを旗印にオードリー・タンさんが投資家を集めてTikTok買収を目指しているって話どうなったんだよぉ。