Mona Gable著「Searching for Savanna: The Murder of One Native American Woman and the Violence Against the Many」

Searching for Savanna

Mona Gable著「Searching for Savanna: The Murder of One Native American Woman and the Violence Against the Many

2017年に近所に住んでいた白人カップルに殺害された先住民女性サヴァンナさんの事件と、それをきっかけに行方不明になったり殺害された多数の先住民女性たち(MMIW)の問題に対する関心が高まり「サヴァンナ法」と呼ばれる連邦法が成立するまでを追った本。

行方不明になったり殺害された先住民女性がとても多いことはかなり以前から先住民活動家らによって指摘されてきた。その理由は多数あるが、かれらが特に問題としてきたのは、警察が先住民女性の被害をまともに取り合おうとせず捜査をしないことや、先住民居住区で非先住民が起こした犯罪に対して先住民部族政府に管轄権が認められていないことだ。居住区の外で起きた犯罪では先住民女性の被害に真剣に取り合ってもらえず、居住区で起きた事件でも原則的に現地の(部族)警察には非先住民に対する捜査権限がない。後者の場合いちおう州や連邦警察の管轄下に置かれているものの、居住区の多くは都市から遠く離れた田舎にあり、事実上放置されている。このような状況が温存されてきたのは、部族警察による捜査を認めれば白人のアメリカ市民が不当に扱われると白人たちが恐れ、部族政府の主権を否定しているからだ。

サヴァンナさんは白人によって殺された多数の先住民女性の一人だが、彼女の事件が注目されたのはその状況が特殊だったからだ。殺害当時彼女は妊娠八ヶ月で、胎児の父親は出稼ぎのために別の街に出ていたが、近いうち同棲する予定だった。しかしある日近所に住んでいた白人カップルは自分たちのアパートに彼女を連れ込むと、バスルームで無理やり帝王切開をして胎児を取り上げ、自分たちの子どもとして育てようとする。どう考えても加害者はまともな精神状態でないわけで、もともとサヴァンナさんを殺害するつもりだったのか子どもを奪うことしか考えられなかったのか、男性ははじめから計画に関わっていたのか事後的に共犯になったのかなど分からないことが多い。とにかくかれらはサヴァンナさんの遺体を川に捨て、彼女の足取りをたどって警察が家に来たときもサヴァンナさんはとっくに帰ったと答え、家の中にいた赤ちゃんを隠し通した。

サヴァンナさんが失踪したあと、家族は彼女が妊婦であり周囲に何も言わず一人で遠くに行くはずがないことなどを訴えたが、警察は自分の意思で失踪したのでは、と取り合おうとしなかった。警察がサヴァンナさん捜索をはじめたのは、彼女が失踪した直後に加害者の男性が紙オムツを買っていたことが発覚し、かれらのアパートを再び調べたところ赤ちゃんが見つかったあとだった(カップルはサヴァンナさんが自分たちに子どもを預けて出ていったと主張)。サヴァンナさんの家族は警察は頼りにならないと、ソーシャルメディアなどで人々に呼びかけてボランティアで大捜索を展開。結局彼女は遺体で発見されたが、それを通して彼女のほかにも多数の先住民女性たちが行方不明になっておりまともな捜索も行われていないことが知られるようになった。

サヴァンナさんはソーシャルメディアを頻繁に使っており、ソーシャルメディアに掲載されたコメントやミーム、写真やパートナーの男性とのテキストメッセージのやり取りなどを通して事件が起きるまでのかれらの関係性や将来への展望などが明らかにされるところは新しい。サヴァンナ法や「女性に対する暴力法」の先住民部族政府の権限を回復させる条項など新しい法律もできつつあるけれど、まだまだ認知も先住民コミュニティが自ら問題を解決するための権限回復も不十分だと、恒例の「行方不明になったり殺害された先住民女性の日」(五月五日)を前にして思う。