Michael Lewis編著「Who is Government?: The Untold Story of Public Service」
「マネーボール」をはじめとする多数のベストセラーを生み出してきた作家が中心となり、ワシントン・ポスト紙に2024年に掲載されたシリーズの書籍化。第二次トランプ政権発足いらいトランプやマスクらによる理不尽な攻撃にさらされている連邦政府職員たちが実際にはどういう人たちなのか、どういった仕事をしているのか明らかにする。
政府職員たちは、物事がうまくいっているときには存在すら意識されず誰にも感謝されず、しかし問題が起きたときにはメディアのやり玉にあげられる存在。そうでなくても非効率だ、腐敗しているという印象を抱かれ、政治家から攻撃されることも少なくない。トランプが二度目に大統領に就任した際、エネルギー庁なんてどうせ環境保護や温暖化対策の名目で石油産業を規制しソーラー発電などの利権をバラ撒くだけだろ、と多数の職員を一斉に解雇したが、エネルギー庁が核兵器の管理やメインテナンスを行っていたことにあとから気づいて慌てて専門家たちを再雇用したことに象徴的なように、実際に政府のさまざまな部署がどういう仕事を担当しているか多くの人には知られていない。本書はそうしたなかから、炭鉱で働く労働者の安全を守ってきた職員や国のために尽くした元軍人たちの墓地を管理し遺族らが訪れることができるようにしている職員、民間企業では手を出せないような科学研究をリードしている職員、ダークウェブで行われる児童性虐待記録物の取り引きやテロリストの勧誘を阻止するために捜査に関わる職員、政府の膨大な資料を保存・管理し現代の人たちが国の歴史だけでなく自分たちの祖先について学ぶことができるようにしている職員ら、それぞれの分野で政府にしかできない仕事を行っている連邦職員たちが紹介されていく。
マスクらはいま、手当たり次第に連邦政府職員を解雇し、また本来の仕事ができないような状況に追い込んでいる。差別的な政策によって権利を奪われている女性や移民やクィア&トランスジェンダーの人たち、予測不可能な経済政策により生活が苦しくなっている多くの一般市民たちの被害は目に見えるが、長年をかけて政府機関のなかで培われてきた知識や専門性の破壊を回復するには今後どれだけの時間がかかるのか見当もつかない。とくに専門性がある優秀な人ほど民間に行けばもっと多くの給料を貰えるのに信念があって政府で働いている人が多く、今後政権が変わったとしても一度酷い目にあったかれらが政府の仕事に戻ってきてくれるのかわからない。政府の規制は面倒でややこしいものが少なくなく、プロセスも不透明で時間と労力を奪われたりもするけれど、だからといって手当たり次第に政府を破壊していってもさらに不透明で予測不可能になり人々の負担は軽減されない。役人や官僚に対する不満は理由がないものだけではないけれど、それでもわたしたちが個人や民間ではできないことを成し遂げるには政府の力が不可欠であり、政府とそこで働く人たちを守る必要がある時期が来ている。