Melissa Petro著「Shame on You: How to Be a Woman in the Age of Mortification」
かつて元セックスワーカーの経歴があることを明らかにして右派の集中攻撃を受け教師の仕事を追われた著者が、他人を貶めるような攻撃がメディアやネットを通してとくに女性に対して差別的に働くことを指摘し、対抗する手段を論じる本。
かつてストリッパーやセックスワーカーとして働いた経歴のある著者は、あるときからニューヨーク市の公立学校で美術教師として働いていたが、性的人身取引防止を口実としたセックスワーカーに対する迫害に反対する意見を2010年にメディアに投書した。そのなかで彼女は自分が元セックスワーカーであり今は教師であることを明らかにしたが、すると右派タブロイドによって「売春婦教師」として大々的に叩かれ、ブルームバーグ市長ら政治家たちが彼女をクビにするべきだと主張するなどして大きな騒ぎとなり、辞任に追い込まれた。
タブロイドや政治化によってやり玉に挙げられ個人的に貶めるような攻撃を受けるのは女性だけではないが、とくに女性に対しては外見や性的な行動や履歴、あるいは母親としての適正などについて攻撃する女性特有のものが多い。1990年代に育った著者がそれを目の当たりにしたのは、クレランス・トマス判事によるセクハラを告発した法律家アニタ・ヒルであり、クリントン大統領を誘惑したと叩かれたモニカ・ルインスキーであり、またブリトニー・スピアーズをはじめ、パリス、リンジー、ジャネットらファーストネームだけで通用する多くのいわゆる「お騒がせ」女性芸能人たちだった。近年、metoo運動の影響もあり彼女たちに対する再評価が進み、彼女たちに暴力をふるったり搾取・利用した男性たちの責任が問われるようになってきたものの、ある意味かつて彼女たちを叩いて荒稼ぎしたメディアが今度は彼女たちを同情的に扱ってまた稼いでいる側面もあると著者は指摘する。
恥の感情は自然なものだし、それが生まれた進化心理学的に合理的な理由はもちろんあるのだろうけれど、いまの世の中における恥の分配は女性差別的だし、それがタブロイドやソーシャルメディアを通して爆発的に拡散し暴力的に作用することは決して自然でも必然でもない。恥の感情を否定するのではなく、その社会的文脈を分析すると同時に、世間の評判に囚われずに自分の価値を認め支えてくれる仲間を集めることで、恥や自分を貶めようとする攻撃に対する耐性を高める方法を著者は訴える。
最後には、かつて著者を侮辱する内容の記事をタブロイド紙に書き、その後大手テレビ局のホワイトハウス担当記者にまで上り詰めた女性ジャーナリストと向き合い、話し合い、同じ年代の女性に傷つけられたという気持ちと、当時男性ばかりのタブロイド紙編集部で言われた通りの記事を書かざるを得なかった若手記者への共感を両立させようとする。人は人を貶めるけれども、人を救うのもまた人なのだ、という著者の信念には感銘を受けた。