Melissa B. Jacoby著「Unjust Debts: How Our Bankruptcy System Makes America More Unequal」

Unjust Debts

Melissa B. Jacoby著「Unjust Debts: How Our Bankruptcy System Makes America More Unequal

大統領選挙にも立候補したエリザベス・ウォレン上院議員の法学者時代の弟子で、彼女の指導で破産制度を専門に選んだ著者が、破産制度が本来の目的を逸脱し大企業や権力者を守る仕組みになってしまっていることを告発する本。

学生時代の著者は、破産制度は借金によって首が回らなくなった人や事業に失敗した人たちがその後の人生を台無しにされず、再起する機会を得るための、社会保障的な意義がある救済制度だと考えていた。しかし連邦破産裁判所に就職し、破産を専門とする法律家・法学者として活動するなか著者が目にしたのは、本当に困っている一般の人たちの私生活を監視し厳しく管理する一方、大企業や政府・警察組織、ヘイト団体などに対する責任追及を阻止する、破産制度の実態だった。

破産制度はもとからこうだったわけではなく、近年広まってきたいくつかの歴史的な流れが総合して生み出された状況だ。まず第一に、レーガン政権以降のネオリベラリズムの潮流のなか、実際のところ個人の破産の大半には医療費高騰が関わっているにもかかわらず、破産するのは個人の無責任な行動のせいであり、非倫理的な連中を甘やかしてはいけないという自己責任論の拡散だ。これにより破産を申請する人たちの私生活や私有物が厳しく監視されるようになり、また政府による罰金や学生ローンの返済などが破産制度の適用外とされるようになった。また同時に、警察による人種差別的な暴力や大企業の怠慢による環境破壊、有害な商品による健康被害やヘイト団体の活動が引き起こしたヘイトクライムなどの被害などが法律上すべて金銭的な被害に換算される傾向が強まり、それらの被害を起こした加害者たちが過ちを認めて謝罪したり賠償金を支払うよりは形式的に破産申請して加害を無かったことにして済ませようとするようになった。

この結果、医療費が払えなくて破産する一般市民や、融資を得るために自身も保証人として名を連ねた中小企業の経営者らが破産制度の恩恵を受けられなくなったり、不必要に複雑化した制度のせいで破産申請するために新たな(破産による支払い免除の対象とはならない)借金をしなければいけなくなる一方、大企業や権力者たちは破産制度を通した経営再建を口実に、ほとんどなんの犠牲も払わずに多くの人たちの人権や健康に対する侵害行為をなかったことにしてしまう。個人にとって破産は多大なストレスを伴う人生の大きなイベントだが、大企業や権力者にとっては潜在的な債務を管理し最小限のコストで処理するためのただの道具でしかない。また、破産制度が黒人の申請者に特に厳しく、同じ状況の白人に比べてより多くのコストをかけ、より厳しい条件を飲まなければいけないことも著者は指摘する。

これらの現状をふまえ、著者は破産制度を本来のものに戻すとともに、人権侵害や環境破壊、ヘイト扇動などをただの金銭的な被害として扱うことをなくすよう訴える。それにしても昨年の選挙で上院議員に立候補して落選したケイティ・ポーター元下院議員もそうだけど、ウォレン上院議員の弟子には優秀な女性が多くてすごい。